これ以上は怖いような

文化祭前日。今日はさすがに全部活休みで、午後からは授業も休み。全クラス全生徒が文化祭の最終準備をしてた。

俺のクラスはクレープ屋で、外でテント張って調理器具をセットしたり試しに作ったりしてた。もちろん当番制だけど、メニュー開発だったりそのレシピ作成は俺メイン。原宿の何とかクレープも顔負けな、立派な店が出来たと思う。

ちょっと休憩ーってことで、ジャッカルと駄菓子屋に行こうとしたところ。

校門付近で、高橋に出くわした。



「あ!丸井くん!桑原くん!」

「よう、何やってんだ?」



一人で手ぶらで、別に買い物して帰って来たってわけじゃなさそうだった。ちょっと息が上がってる感じだから、何だか走ってたっぽい。
…と、隣りのジャッカルがニヤニヤしてやがるのが目に入った。ガム噛んではいるけど、俺自身の顔がニヤけてるからか。しかし腹立つ。



「あのー、実は」

「?」

「仁王くんが行方不明で探してて」



行方不明?仁王が?いや、そんなのいつものことじゃんって、思った。あいつはみんなで楽しく談笑してるときでも急に消えたりするのがしょっちゅうだ。ほっとけばって思ったけど。

ただ、聞くところによると、仁王は文化祭実行委員らしい。血迷い過ぎだろE組。
たった今、E組もうちのクラス同様に最後の準備をしてて、同じく実行委員の桜や幸村に、探してこいって命令されたらしい。

普通、最もクラスでつるんでる幸村や実行委員の桜が行くべきだけど。桜は今担任となんか作業っつーかおしゃべりしてて、幸村にはいってらっしゃいと笑顔で見送られたらしい。
つーかジャッカルの前で普通に桜の恋路バラしてっけど、大丈夫なのかな。気づいてなさそう。



「仁王くんに会ってませんか?幸村くんはコンビニにいるんじゃないかって言ってたけど、いなかったので」

「いや、俺は会ってねぇな。ジャッカルは?」

「俺もだな」

「そうですか…」



相変わらずあの二人プラス仁王にはいいようにパシられてんだよな。めちゃくちゃ困ってるって顔。いつもは元気なのに、ちょっと元気なさそうで。

…会ってはないけど、たぶんあそこかなってとこは思いついた。中学の頃からご用達の場所。高校でもそうかわかんねーけど。



「じゃあ俺も探しに行く」

「えっ!いいんですか!?」

「ジャッカル、悪いけどお菓子買ってきといてくれ」

「おう、任せとけ」



いつもだったら、なんで俺が!って文句言うくせに。やたらニヤけやがって腹立つけど、まぁ今日は勘弁してやるぜ。



「丸井くん、心当たりあるんですか?」

「んーまぁ、ここかなってとこは」

「さすが!去年仁王くんと同じクラスだったんですもんね!」



褒められるのはうれしい。でもいつまでも丸井くんに敬語ってところが気に食わない。
それは嫌だって言いたいけど。何となく、こいつにとっては名前で呼ぶのって特別っつーか、結局は菊丸を思い出させるんじゃないかって思った。敬語も、まだ俺に心開いてないからかなって。

うん、これからだ。これからもっと親しくなって……、
こないだの、中途半端な話。あれをちゃんとハッキリさせたい。
俺自身も。



「…まだ上がるんですか?」

「ああ。屋上まで」

「えっ、仁王くん屋上に!?」

「たぶん。じゃなかったら保健室かな」

「なるほど!さすが丸井くん!」



褒められるのはうれしいけど、こんな話し方は嫌だ。
でも、こんなうれしそうなありがたそうな笑顔を見て、そんなことはどーでもいいのかなって、思った。

こないだはあんな、キスしたり告白みたいなこと言ったけど。実際自分はどうしたいのか、ハッキリ決まってない気がした。こいつが俺のことを考えてくれるならもちろんうれしいんだけど。

じゃあその一歩先で、俺のことを好きになるかって考えたら、急に怖くなる。そうならないんじゃないかってことのほうが頭に浮かんじまって。

だからか、たとえ独り言だろうと心の声だろうと、高橋が好きって、素直に言葉にすることが出来ないんだ。



「仁王くんっ!」

「…げ」

「さぁ、教室に戻りましょう!」



屋上に出ると、思った通り仁王はいた。
残念、ここにいなかったら保健室行ったり別の場所探すていで二人でいられたのに。

仁王を引っ張ってきてE組に向かう途中、密告者として仁王にはぶつくさ文句を言われた。一応気を使ってくれてんのか、小声で。



「仲良くデートか?」

「ちげーよ、たまたま会っただけだ」

「裏切るなんて酷いのう。俺はブン太のヒミツは大事にしまっとるのに」

「…ヒミツ?」



なんだヒミツって。俺にヒミツなんて……いや、あるかも。高橋に知られたくないことはたくさんある。別に変なことじゃなくて、男としては知られたくないこと。



「あれ、ブン太も一緒かい?」



E組前の廊下に幸村がいた。外の飾り付けをやってるみたいだった。



「たまたま会ったんだよ」

「ふーん。…あ、そうだ、ブン太に試食してもらおうか」

「試食?」

「うちの軽食の試食だよ。さっき作ったものがあるから」



幸村がチラッと高橋を見やると、慌てて高橋が今持ってきます!って、教室に入っていった。

うーん、なんて言うか。別にいじめられてるわけじゃねぇんだろうけど。相変わらずなんだな、ここの関係は。

持って来させるのも悪いから、俺もE組内に入った。後ろから仁王と幸村も。



「はいっ、どうぞ!」

「あー、サンキュ」

「仁王くんもよかったら!」

「いらん」

「あ、すみませんっ」



連れて来られたのが嫌だったのか、不機嫌な様子の仁王に高橋は怯えてたけど。
俺がうまいって言ったら、やったーって喜んでバンザイした。
またそのデカい声に、仁王は嫌そうな顔をしたけど。

と思ったら。仁王がゴソゴソと、ポケットからなんか出して俺に差し出した。

手紙?ピンクの封筒で。ハートのシールが貼られてる。
…あれ、もしかしてこれ。



「ブン太宛てにラブレター預かったぜよ」



めちゃくちゃ胡散臭い笑顔でそう言われた。

これは絶対、復讐。
みんないる前で、しかも高橋がいる前で渡すなんて。
ああ、さっきのヒミツって、これか。何が大事にしまっとるだよ。後ろのポケットに入れてたせいかぐしゃぐしゃじゃねーか。



「へぇ、ブン太に?誰から?」

「さぁ、名前忘れたけど、むちゃくちゃかわいい子じゃったのう」

「すごいじゃないかブン太。かわいい子なんて、うらやましいな」

「ブン太は相変わらずモテるのう」



何がウラヤマシイナ、アイカワラズモテルノウだよ!棒読み白々しい!

俺にしたって、この二人にしたって、中学の頃からわりと告白はされるほうで、それは有名な話。だから珍しくも何ともないし、今さら囃されるもんでもない。

高橋がいるからって、ぜってー楽しんでる。
あーどうリアクションするか。受け取らないと下手したら仁王に開けて読まれるかも。幸村もいるし。
高橋は今、どう思ってんのかな。

結局は俺も、幸村や仁王と一緒で、こいつの反応を見てるってこと。
違うのは、また怖いって気持ちが上がってきたってこと。

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