うれしいけど気まずい

「仁王、これの途中式は?」

「あー、教科書のほうにザッと書いちょる。…ジャッカル、そっちの英訳終わっとる?」

「おう、終わってるぜ、ほらよ。…ブン太、この古文の答えなんだが」

「んーと、…ああ、こっちだ。一応訳も付けといた」

「サンキュ」



夏休み最終日。俺とジャッカルと仁王は、練習後に1年C組にて宿題の教え合いっつーか写し合いをしてる。
それぞれ得意分野をやっといて、あとでお互い見せ合う的な。俺は国語、ジャッカルは英語、仁王は数学。最初仁王が提案してきたときは裏切られねーか心配だったけど、まぁこいつもまともに全部やりたくねぇらしく、約束通り三人寄れば的な感じでスムーズに進んだ。

ただ。



「誰か物理やった?」

「「……」」



シーン。盲点だった。ていうか普通夏休みの宿題っつったら三教科と美術の作品とせいぜい自由研究的な社会科だろ。
なのに物理の問題集の宿題がけっこう出てた。



「仁王、お前建築科志望だろぃ。やってないの?」

「忘れとった」

「ジャッカルは?」

「や、なかなか時間なかったから」

「ブン太はやっとらんの?」

「俺文系だし」

「「「……」」」



最後の最後で思い出すとは。しかも物理。俺はクソ苦手。このメンツなら仁王ができるほうだけど、こいつはすでにペンとか片付けてて、さっきからジャンプ読んでる。絶対やりたくねぇって顔。



「どーする……」



「あーーー!」



三人とも俺はやるのは嫌だって表情して固まってたら。

教室の後ろのドアから、デカい声が響いた。その瞬間、さっき以上に仁王は顔を歪めた。

もう声っつーか声量でわかったけど、一応振り向いたら。
もちろん高橋がいました。



「こんにちはっ!」



仁王はあいつと話すの面倒臭そうだし、ジャッカルは複数でいるときに前に出て話すタイプでもないし。
もちろん俺が応対しました。



「よう、何やってんだ?」

「はい!E組で宿題をやってます!」

「へー。一人で?」

「いえ、切原さんとです!数学のサード先生もお呼びして教わってます!」



先生という名前を聞いて、仁王はすぐに持ってたジャンプを鞄に突っ込んだ。一応、漫画雑誌類の持ち込みは禁止されてる。しかもサード先生って、E組担任でもあるけどテニス部の顧問だ。仁王もだけど俺も頭は上がらない。

でも噂によると、やたら高橋はサードに懐いてるらしい。まぁおそらくこの学校内でよく話せる相手が桜と先生しかいないんだろうな。

そんなこと考えてたら、高橋がこっちにやってきて、俺の隣りの席に座った。



「戻んなくていいの?」

「あー…そのー、何となく」



えへへと照れたように笑って言った。なんだ?
まさか俺と話したいとか?…なんて。

…ああ、でもそれは俺がやだな。いや、こいつとは話したいけど。てか話したいことがあって。

でも目の前の仁王もジャッカルもニヤニヤしてるし。こないだからすげー言われんだよな。ブン太が青春してるーって。

と思ってたら、仁王が軽く立ち上がってなんか物理の問題集を高橋に差し出した。



「お前さん物理得意だったじゃろ。終わったんか?」

「あ、物理は一通り!」

「そうか。じゃ、これもよろしく」

「…よろしく…とは?」

「ブン太も一緒にな」

「…は?」

「俺とジャッカルは帰るぜよ。じゃあな」

「え、ちょっ…」



そう言って無理矢理ジャッカルを引っ張ってった。あっという間に俺と高橋の二人きり。



「…あのー」

「……」

「よろしくってことは、仁王くんの分をやれということでしょうか?ザッと見る限りノータッチですが」

「たぶん」



その通りだよ。そんで俺に気利かせたんだかおもしろがってんだかで二人にしたんだよ。おまけに物理もやらなくて済むしな。いや二人きりはそれなりにうれしいぜ。けど、

第一に、俺の大嫌いな物理を押し付けられたってこと。
第二に、こないだ青学と練習試合したときの件で、若干こいつとは気まずいってこと。気まずいっていうか、俺が勝手に意識してる。

それがあって、素直に喜べない。



「えええ!?仁王くんの宿題を、あたしたちが!?」

「そーだよ。仁王のっていうか俺とジャッカルも」

「三人ともやってないんですか?」

「…そーだよ」

「えええー!?」



その驚きはしょうがない。だって半端な量じゃねーし。三人揃ってノータッチだし。

かっこ悪いって、思われたかな。真面目なやつだし。



「…よし、それなら早くやりましょう!」

「え」

「だいたい答えは覚えているので、そんな時間はかからないと思いますが…」



特に文句も言われず、机をこっちにくっつけてさっそくやり始めた。その行動に、すげー申し訳ない気持ちと。
あーやっぱりいいやつだ、中身もほんとにって、思った。



「ごめんな」

「いえいえ!頑張りましょう!」

「ていうかE組行くか?あっちに荷物あんだろ?」

「えーっと、あちらに行くのはちょっと」

「?」



あちらというのはE組のことで。さっきなんでこいつがここに来たかっていうのはトイレに行ったかららしいんだけど。

教室入ろうとしたら、桜に無言でシッシッてやられたらしい。というのも、



「えええ!?」

「丸井くん、声がデカいです!」



お前に言われたくねーよって。でもすげービックリした。

なんとなんと、桜はサードが好きなんだって。けっこうマジで。高校見学のときに一目惚れしたらしい。
だから最初男子部のマネージャーになりたがってたし、女子部にも入ってくれたって。運良く担任だったのは日頃の行いがよかったとか何とか寝言言ってたらしいけど。



「絶対、誰にも言わないでくださいね!特にテニス部」

「あ、ああ…」

「切原さん、怒ったらすごく怖いので!」



いや俺も桜は怖いから。ていうか高橋をそんな危険な目に遭わせられない。

すげー衝撃的。仲良い後輩の姉貴が高校教師パターンとは。まぁおそらく儚く散るだろうけどよ。



「いいですよね、すごく」

「ん、何が?」

「切原さん、先生の前ではすごく乙女なんです」

「あいつがぁ?」

「はい、あたしにはキツいのに。だから応援したいなって、思いました」



まぁ、恋すればそうなるんだろうな。
こいつも、ちょっと前まではきっとそうだったから。気持ちがすげーわかるんだろうよ。
俺は……、どうなんだろうなぁ。

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