同時にイライラもする

「…丸井くん」



ちょっと考えてて間が空いたけど。高橋がポツリと、俺の名前を呼んだ。

…あれ、まさか落ち込んでる?いや、丸井くんすごいですねって、続ける?
その高橋の顔を見て、仁王も幸村も実に愉快そうにしてる。



「…な、何でもないですっ!」

「……」

「紙皿捨てて来ます!」



俺の持ってた紙皿を奪って、教室の奥のほうに行っちまった。

そんで仁王も幸村も、小さいけど声出して笑い始めた。
ああほんと腹立つやつらだ。応援してんのか邪魔してんのか、どっちだ。



「ほらよ、一応受け取りんしゃい」

「…なんで今渡すんだよ」

「これ以上ないタイミングだったじゃないか。あれは相当、気にしてるよ」



ほんとかよ。気にしてはいるかもしれないけど。さっきの表情だと。
でも、いつもみたいにえええ!とか声上げなかったし。

単に興味なかったのかなぁ。



「さてと、ちょいと慰めに行ってくるかの」



そう言って仁王は、俺にそのラブレターを押し付けて、高橋のところに行った。

慰めるって、またいじめるんじゃねーのか。
でも何となくあいつのところに行くのは嫌だった。
あの反応の答えを知りたくなかったのかもしれない。怖いのと、
期待してないほうだったらたぶん、今以上に腹立つ気持ちになりそうだから。



「丸井」



幸村も外の作業に戻って、俺も教室戻ろうかと思ったら。
桜に呼び止められた。さっきまで、作業もせず担任と談笑してたけど。



「なに?」

「アンタ、ほんとのところはどーなの?」



小声で。基本空気読めないけど一応小声とかは使える。でも肝心なところでデカい声になったり余計なことを口にする。それは赤也もこの女も共通してる。



「ほんとのところって、なんだよ」

「だからー、裕花のことだよ」



ほらな、すぐ普通のボリュームになった。周りに聞こえるじゃねーかよ。

でも、初めてあいつが名前で呼ばれてるのを聞いて、なんか意外だった。青学のやつら、菊丸でさえ名字呼びだったから。
結局はこいつも、高橋に懐いてるわけか。



「お前に話すことなんてねぇよ」

「わー憎たらしい!好きならハッキリ言えばいいじゃん」



好きなら。そう、好きならな。
そうだよ、たぶん俺はあいつのことそうなんだろうよ。

でももし拒絶されたら。今までは受け入れてもらってたけど肝心なところでダメだったら。
そう思うと怖くなって。これ以上は進めたくない気持ちがある。だから自分がどうしたいのか、決まってない気がするんだ。

もしあいつが、菊丸のことは忘れて、こないだ言った通り俺のことを考えてくれるようになったら。俺のこと好きになるかもって自信が持てたら。
俺も素直にあいつが好きだって、ちゃんと言葉に出来る気がする。
そんな受け身な、ズルいことばっか考えてる。逃げてるだけだな。

と、桜を通り越して向こうに、高橋と仁王が見えた。またなんか仁王がちょっかい出したのか高橋がデカい声あげてて、仁王が口塞いでた。

あーいうの見るとほんと、腹立つ。
なんか最近いろいろと、腹立つことが多い。
怖いって気持ちもあるせいか、ちょっとイライラが募ってる。



「あっ!丸井くん!」




その日の帰り道。たまたま駅で高橋に会った。知らなかったけど同じ線同じ方向だったらしい。

遅くまで最後の準備してたから、ちょうど帰宅ラッシュ時で到着した電車はえらく混んでた。
ぎゅうぎゅうだけど静かな中、こいつの声はけっこう響く。



「明日から楽しみですね!」

「そーだな。ちゃんと準備は終わったのか?」

「はいっ!幸村くんに秘策があるらしくて、売り上げトップ賞も狙えるそうです!」

「へー。ウチも負けてねぇぜ」

「クレープですよね!食べたいなぁ」

「時間あったらこっちくれば?俺が一番うまいやつ作ってやるよ」

「やったー!ありがとうございます!」



混雑してるからバンザイはできなかったみたいだけど、めちゃくちゃ喜んでくれた。
…それより幸村の秘策って何だ。なんか、やな予感がするけど。

たくさん人がいるから、半分向かい合わせの俺と高橋は自然と腕が触れ合ってる。顔も近くてドキドキする。

もっとくっつきたい。腕回してこっちに寄せたい。…出来ねーよなぁ。



「あのー、丸井くん」

「ん?」

「き、聞きたいことが…」



俺んちの駅まであと1駅。まもなく〜なんてアナウンスが聞こえた頃、高橋は俯き加減に聞いてきた。

なんだ聞きたいことって。よくこいつが口にするフレーズだけど。

まさか、さっきのラブレターの件だったりして。何て書いてあったんですかぁとか。誰からですかぁとか。
そうだったらいいなぁなんて。



「……丸井くんは、星が好きですか?」

「…は?」

「あ、あの、クッキー作り教えてもらったとき星があったので。仁王くんも、以前もらって食べたことあるって言ってて」



いきなりなんだよ。まぁ確かに星の型はけっこう使ってるやつだけど。でも別に好きってほどでもない。ただウチにあったから使ってて、あのときも持ってっただけで。

それともう一つ思いついた。
中学の頃、好きだった近所のケーキ屋に、星型の砂糖菓子がついたチョコケーキがあったんだ。

そう話し始めると、高橋はジッと俺を見つめた。

そんな見られるとドキドキする。
でももうすぐ駅に着いちまう。ドキドキするけど、ちゃんと話は続けられた。



「ウチ弟いるから、買ってきてもそれ食べるのは弟で、俺は一度も食べたことなくてさ」

「なるほど、譲ってあげてたんですね」

「まぁお兄ちゃんだから。だから星見ると、なんかうまそうに見えるんだよな」



星がうまそうなんて丸井くんらしいですねって、笑った。くだらない話なのに楽しそうに。

まぁでも確かにそうだよな。普通は星と言えばきれいとかかわいいとかそんなもんだ。でも何だか星=うまそうなんだよな、俺は。

話が終わったところでちょうど駅に着いて。
降りるとき高橋が言った。



「あたしも星はキラキラしてるから好きです!」



こいつはキラキラしてるものが好きなのか。菊丸のこともキラキラしてたって言ってたし。それとも好きなものがキラキラするのか。
まだ菊丸はキラキラしてんのかな。

そう考えたら、今日感じてた怖い気持ちと腹立つ気持ちに加えて、胸がまたぎゅーっとした。
忙しいな俺も。

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