ハロー、マイフレンド!

前略、テニス部の皆様。お元気していますか?私は元気です。これからの高校生活に夢と希望を抱いています。

ただ一つ。みんなと離れてしまったことはとても寂しいです。

でも、新しい学校であるここ、立海大附属高校もとてもテニス部が強いです。
そして私はここでも、トップを目指します。みんながかつてそれを成し遂げたように。

だからみんな、どうか心配しないでください。
いつか試合会場でお会いできる日を、楽しみにしています。



「ついに今日から高校生…!」



今年は開花が遅かったそうで、入学式に合わせたかのようにきれいな桜が満開。

申し遅れました。あたしは高橋裕花です。去年まで東京の私立の中高一貫校に通っていたけど、引っ越しによりここ、神奈川県の私立立海大附属高校に入学する運びとなりました。

前の学校と同じくらい広くてきれいな校舎。制服はブレザーに変わってとても新鮮。鞄は指定じゃないらしく、思い入れも強い前の学校のものをそのまま使うことにした。

中学からあたし自身は何も変わってないけれど、ここでまた一躍、成長したいと思います。



自己奮起はそこそこに。校門前で配られたクラス表を見て、自分の教室に向かった。1年E組。クラスがアルファベットなんてかっこいいとワクワク、どんなクラスなんだろうと期待に胸を膨らませた。

教室に着くと、すでにわらわら、たくさんのクラスメイトたちがいた。
ここ立海は、同じく中高一貫校。中等部からの持ち上がり生徒がほとんど。外部から来たあたしはいわば新参者。つまりはじめましての今日が、とてもとても重要なんだ。
教室の入り口を一歩入り気をつけ。あたしの高校生活第一歩だ。



「お、おはよう!今日からよろしくお願いします!」



教室内はざわざわしていたけど、お辞儀しながら発したあたしの声は、それなりに響き渡った。
きっともう友達の輪とかグループとか出来上がってるに違いない。



『溶け込むには元気良く明るく行くのがいっちばん!』

『なるほど!』

『まず教室入るときに、いつもみたいなデカい声でみんなに挨拶すればだいじょーぶだよん』

『うん!』



そう、かつてのテニス部の盟友兼クラスメイトその1は教えてくれた。いつでも元気に明るく、そして笑顔を忘れずにと。



「…おはよー」

「あーおはよう」

「よろしくー」



ドキドキしながらクラス中を見渡すと、徐々に入り口付近にいた数人の女子や男子から、暖かい言葉を頂いた。うん、元気良く挨拶に成功。きっと好印象だ。

男女の列は交互なものの、席順は決まってないそうで、適当に着席してくださいと黒板に書いてあった。
あたしは黒板が見やすい、教卓の真ん前に座った。というか、そこしか空いてなかった。他は座っていなくても周りに人がいたりと混雑していたから。

さっきもらったクラス表を見ると、このクラスは男女各18名。もちろん誰も知らない。この中の何人と友達になれるだろう。不安だけど、頑張っていかなくちゃ。



「うわー、ここしか空いてないかぁ」

「残念だったね〜桜」

「もー、席とっといてよー」



ガタッと、後ろの席に誰か座ったのがわかった。

ここは割りと孤立地帯。誰もが嫌がるエリア。後ろの人ともその親近感で、仲良くなれるかも…。



『そうだな、自分に置き換えて考えてみるといい。高橋もより早く自分のプロフィールを覚えて貰えたらうれしいだろう?』

『うん!』

『ならば先に自分が相手のことを覚えることだ。データ収集の第一段階としてはクラス表だな。まずは名前を覚えよう』

『なるほど!』



かつてのテニス部の盟友兼諜報部員はそう教えてくれた。確かに、いち早く名前やプロフィールを覚えてもらえたらうれしい。

クラス表を隈なく確認。さっき、桜って呼ばれてたから……、なるほど、切原桜さん。



「おはようっ!」

「ぅわ!」



あたしが前触れなくいきなり振り向いたせいか、後ろの席の切原さんは、めちゃくちゃ驚いた声をあげた。驚かせてしまって申し訳ない。



「あ、あの、あたし、高橋裕花って言います!」

「…あ、どうも」

「よろしくお願いします!切原桜さん!」



切原さんは、パーマなのかふわふわした茶髪でマスカラなど目元も濃くて、少し派手めな印象。
でも、かつてのテニス部の盟友もとい男子部副部長は言った。



『初対面の人は特に、見た目で判断してはいけないからね』

『はい!』

『俺だって髪型でたまに奇抜な人だと思われるけど、中身は至って普通だろ?』

『確かに!』



何だか目つきもきつい感じの切原さんも、きっと普通の同じ1年生だよね。



「あーよろしく。てか、何であたしの名前知ってんの?」

「この、クラス表で確認したので」

「ふーん。アンタ、外部から来た?」

「はい!よくご存知で…」

「だって初めて見たもん。見た感じ目立ちそーなのに」



目立ちそう?あたしが?もしかして、すでに浮いてる…?新参者雰囲気出ちゃってる…?

そういえば。かつてのテニス部の盟友兼クラスメイトその2が言ってた。



『高橋さんは立海でも人気者になりそうだね』

『え、ほんと!?』

『うん。美人さんだしいろいろ目立つし、きっと男子にモテちゃうよ』

『ありがとうっ!』



美人ってそんな…!切原さんもそんな意味で言ったんですか?なんか、恥ずかしいです。うれしいですが!

あれ、でも確かかつてのテニス部の盟友兼後輩たちが言ってたっけ。



『高橋先輩は顔はいいのになーんか、惜しいんスよね〜!』

『惜しい…とは?』

『頭が残念な感じ。あと声がデカ過ぎ』

『おい越前、それはぶっちゃけ過ぎだぜ』

『桃先輩もそう言ってたじゃないっスか』

『俺が言ったのは黙ってたほうがいいってことよ』

『同じことっス、それ』

『いーや、違うな、違うぜ!』



学校の成績はむしろ上の…下ぐらいをキープするあたしは、勉強ではなく違う意味で頭が残念と言われた。そして声が人よりデカいらしい。

そう、だからこそ、この新しい学校では、あたしは慎ましく外見も中身も美しくありたいと思った。おしとやかに、大和撫子になると。

ただ、それ以上の目標が一つ。



「切原さんは、部活もう決めました?」

「んー、まぁ狙ってるやつはあるけどね」

「狙ってる…とは?」

「アンタは?なんかやってたの?」

「はい!テニス部だったので、ここでも入りたいなって」

「テニス部って、もしかしてマネージャー?」

「いえいえ、プレーヤーのほうで」

「プレーヤー、ってことは女テニ……」



切原さんは、なぜかすごく訝しい顔をした。



「うちって、女子テニス部あったっけ?」

「はい?」



呟くように言うものだから、あたしの耳や頭に届くまで時間がかかった。

あったっけ…とは?



「はい、おはよう。俺がこのクラスの担任だ」



そんなときちょうど、担任の先生が教室にやってきた。男性の、見た目若そうだけど実は結構年いってるんじゃないかって感じの先生だ。何となくフレンドリーそうで、ホッと胸を撫で下ろした。

入学式まで多少時間があるそうで、簡単に一人ずつ自己紹介をすることになった。

ドキドキ、ドキドキ。この機会がきっと一番大事な瞬間だ。しっかりと自分の紹介をしないと。



『人の印象やイメージはそうそう、変えられるものではない』

『はい…!』

『初めの自己紹介がその後を決める。油断せずに行こう』

『はい!』



かつてのテニス部の盟友もとい男子部部長が喝を入れてくれたように。
あたしはいくばくかの緊張を抑えて黒板の前に立ち、これからマイフレンドになる予定のみんなへ、自己紹介をした。



「はじめまして!高橋裕花です!」



あたしが力いっぱい名乗ると、少しクラスメイトたちが騒ついた。ちょっと声を張り上げ過ぎたかしら。いやでも、元気な面をアピール出来てる、きっと。

と思っていたら、先生が口を挟んだ。



「お、確か高橋は外部受験生だったか」

「は、はい!」

「うちのクラスはお前だけだな」



お前だけ…とは?あたしだけ?
先生は、みんな仲良くなーと付け加えたけど。…みんな中等部から持ち上がり?やっぱりあたしだけ新参者?

いやいや、それは覚悟してたはず。だからこそかつての盟友たちの助言を胸に、頑張るんだから。



「…えっと、中学は東京でした!」

「ほー。どこだ?公立か?」

「いえ、私立青春学園です!テニス部でした!」



その刹那。空気が凍るような感覚がした。
というのも、何だかどこからか強い、まるで睨むような視線を感じたから。

目だけ動かしてクラスメイトを確認しても、ほとんどみんな普通の顔でこっちを見ている。

けど、たった一人。あたしを冷たい眼光で見つめる男子がいた。黒いふわふわした髪で、顔立ちは何だか女子みたいにきれいなんだけど。

そしてその男子のすぐ後ろ。みんなの自己紹介タイムだというのにずっと机に伏せて寝てた人が、むくっと起き上がった。すごい髪の色。銀?白?とにかく、切原さんとは比べものにならないほど派手。

…いやいや、でも、言われたじゃないか。見た目で判断するなって。きっとあの睨むような視線のふわふわした彼も、派手過ぎる銀髪の彼も、いい人に違いない…、

言い聞かせはするものの、その銀髪系男子がふわふわ系男子を後ろからつついて、ヒソヒソ話を始めた。なんだろう。あたしのこと?あたしを見てるからあたしのことか?

いやいやいやいや、気にするな。しっかり自己紹介しないと。最大の目標をここで伝えないと…!



「えっと、それで、一つ目標があります!」

「ほー、なんだ?」

「この、立海でもテニス部に入部して、全国制覇を目指したいと…」

「あーそれは残念だったなぁ」

「……残念…とは?」

「うち、女子テニス部ないから」

「……」



えええええー!?

大和撫子はさっそく崩壊してしまい。驚きに満ち溢れ校舎中響き渡ったその絶叫のせいか、はたまたあるはずのない女子テニス部への意気込みを語ったせいか。
あたしはどうやらまたクラスメイトから、『残念な子』と影で言われるようになってしまったらしい。



前略、青学テニス部のみんなへ。
あなたたちとお会いできる日は、来ないかもしれません。草々。

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