でもこの状況はうまくない

幸村が言ってた、青学から練習試合のお誘いがあった件。それは期末テストも終わって夏休みに入ってから、場所はうちの学校で実現した。

そのとき話してたように、高橋も応援として駆けつけて、ついでに赤也となぜか赤也の姉貴の桜も来た。桜はどうせ赤也の応援しかしないんだろうけど。



「みんなー!!」



俺らが準備してるところに、青学の連中が到着。

予想通りだけど、高橋はその青学のみんなのほうに、猛ダッシュで駆けてった。雄叫びをあげながら。

ちなみに今日高橋はなんか化粧をバッチリしてて。何もしなくてもかわいいのに、余計きれいになってた。この雄叫びで台無しだけど。



「高橋〜!元気だった!?」

「英二くん!元気だよっ!」

「お久しぶりだね、高橋さん」

「不二くん!会いたかったよーっ!」

「相変わらずっスね〜高橋先輩!」

「うるさいっス」

「桃城くんも越前くんも…!あ〜ありがたやありがたやっ!」



何に有り難がってんだか不明だけど。
まぁ、久しぶりに仲良かった友達に会えたんだ、そりゃ喜ぶよな。いつもにも増してデカい、あいつの声が校庭中に響いた。



「おーおー、ずいぶん気に食わんて顔しとるのう」



あっちをチラチラ見てた俺のとこに、仁王が近寄ってきた。なんなんだよこいつは。俺と違って愉快そうな顔だけど。



「別に気に食わなくねーよ」

「ほーう」

「ブン太の気持ちはわかるよ」



幸村も来た。いや、準備はだいたい終わってるし、あとは青学の連中の着替え待ってから、軽い練習するって感じなんだけど。

…俺の気持ちがわかるって?



「でも、この後のほうがよりムカつくと思うけどね」

「え?」

「まだまだ感動のご対面って感じだから、俺たちはさっさとウォームアップに入ろう」



幸村の言ってる意味はわかんなかった。だって俺ですら、さっき仁王が言ってたような気に食わん、モヤモヤした感じの正体がわかんねーのに?

でもそのちょっと後、それがなんなのか、ハッキリわかる。



「頑張れーっ!!」

「……」

「ファイトー!青学っ!」



誰が告知したんだか知らねーけど、夏休みな上にほぼほぼプライベート的な練習試合なのに、けっこう人は集まってた。一応先輩部員たちもいたしほとんどが立海で、青学生はちらほら。だから声援も立海9割青学1割って感じなんだけど。

その青学1割が、10割近い声出して青学の応援してた。



「負けるな青学ーっ!」

「……」

「勝つのは青学ーっ!!」



どっかのフレーズパクったかのような応援。

近くにいた幸村が、ね?って顔で俺を見て笑った。



「勝つのは青学っ!負けるの立海っ!」



おいそれは言い過ぎだろって、言いかけたけどやめた。その、さっきから張り切りまくりの声の主は高橋だったからだ。制服は立海なのに。



「彼女は結局、まだ青学気分なんだよ」

「…みたいだな」

「知ってた?彼女の鞄、いまだに青学の指定鞄だよ。まぁうちは自由だけど」

「……」

「気分良くないよね」



ほんとに。気分良くねぇ。あいつの鞄はなんか見たことあんなぁって思ってたけど。青学のかよ。俺とかテニス部はラケバで来ることも多いし、他のやつらもわりと自由な鞄だし今までは気にならなかったけど。

つーか、幸村が高橋のこと引っかかってそうだったのは、この件でなのか。いつまでも青学青学って思ってる雰囲気が癇に障ったのか?



「英二くんも大石くんもすごいっ!また上手くなってるっ!」



しかしさすがに、俺が去年負けた相手を応援されるのは……素直に腹立つぜ。



「おい」



他の何人かが試合してて、俺は休憩時間。カメラ持ってきたのに部室に置いて来ちゃったって、取り行こうとした高橋を引き止めた。

ちなみに部室ってのは1年E組の教室。部室でも何でもない、ただのあいつのクラスだけど、担任兼顧問に許可もらったとかで、ボールやらラケットやらをダンボールにしまって、隅っこに確保してるらしい。



「あっ、丸井くん!お疲れ様です!」

「…ああ、お疲れ」



朝集合したときにちょっとはしゃべったけど。練習始まってからはずーっと青学のほうに付きっ切りで。

応援する数は立海のほうが多いはずなのに、完璧に負けてる気分。



「お前さぁ」

「はい!」

「何考えてんの?」

「……はい?」

「青学ばっか応援しやがって」



俺がそう言うと、高橋はすげー不思議そうにした。まぁそうだろうよ。なんで俺が若干キレ気味なのか、意味不明だろう。

でも俺としては、ここは譲れないって思った。なんか、こいつに対して怒ったり文句言ったりしたら、あたし嫌われてるかもとかなんとか言い出すんじゃないかって、思ったけど。

そりゃ青学の連中に会えたらこいつも喜ぶしいいじゃんって思ったけどさ。
それとこれとは別で、やっぱり青学じゃなくてこっちを応援してほしくて………、



「あっ!!」



高橋が、ビックリした顔をして叫んだ。それに俺もビクッとしたけど。

すぐに高橋の顔が、笑顔に変わった。めちゃくちゃうれしそうな。
今日は化粧をバッチリしてるだけに、その顔はめちゃくちゃかわいかった。



「おー高橋〜!」



その高橋の視線を追って振り返ると、そこには青学の菊丸がいた。

何度も言うけど、俺が去年、負けた相手だ。ダブルスでな。



「英二くんっ!休憩?」

「うん、さっき第一試合終わったよん!」

「お疲れ様!英二くん、また上手くなってた!」

「にゃははっ、高橋に褒められるとうれしい!」



なんだよこいつら。めちゃくちゃ親しげ……、まぁ同じ中学同じ部活ならそんなもんか。

…いや待てよ、今こいつ、“英二くん”って呼んだ?今だけじゃなくて、そういや来たときから英二くんって。
こいつ、人のこと名字で呼ぶんじゃなかったの?

もしかして、付き合ってる…!?



「そーだ!高橋ちょっとちょっと!」

「え?なになに!?」



俺の存在はまるっっっきり無視の菊丸は、高橋を連れてった。

いや、俺は呼ばれたわけじゃねーけど。そんな遠くじゃなくて、ちょっとあっちに移動したってだけだったから。俺も少し寄って、二人の話に耳を傾けた。



「…あれあれ!あの子!二人組でいる女子の手前の子!」



菊丸は、フェンスの向こうにいる青学の生徒を指差した。ちょっと茶髪でちっちゃくて華奢な、もろ女の子って雰囲気の子。

まぁまぁだな。うちの高橋のがかわいい。こいつはかわいいっつーか顔立ちが整ってる正統派な感じだし。



「あの子……あ、去年隣りのクラスだった!」

「そうそう、で、今俺の彼女!」

「彼女…とは?」

「実は去年から気になってて、こないだ告白したらオッケーもらえてさ〜!」

「……告白?」

「今日応援に来てくれて…あっ!こっちに気づいた!そんじゃ俺、ちょっと行ってくる!」



そう言って菊丸は、あの女子のほうに走ってった。

なんだ、菊丸は別に彼女がいたのか。ちょっと焦っちまったぜ。いやいや、焦るって、よくわかんねーけど。

いやーでも、勝ったなこれは。別に高橋は俺の彼女じゃねぇけど。立海の圧勝だなこれは。悪いな、青学。高橋は立海だから。



そんなくだらないことを考えてたら、急に振り返った高橋が俺の肩にぶつかってきた。しかもそのまま走ってどっか行っちまった。ぶつかったんなら謝れよなと思いつつ。
何だか、妙な空気感。



「ブン太君」



高橋と入れ違いに、青学の不二が現れた。そっか、こいつも今休憩か。確か菊丸とやってたもんな。



「高橋さん、猛スピードで走って行ったけど。何かあったの?」

「さぁ。よくわかんねーけど、あれ」

「あれ?」

「ほらあれ。あれ見て、どっか行っちまったぜ」



不二は俺の指差したほうを見て。
すぐ振り返って、というかキョロキョロして、たぶん高橋を探した。

俺も見渡してその場でだけど探したけど、あいつは見当たらなかった。足はえーな。



「…失敗したな」

「え?」



不二は半ば諦めたように。いや、ちょっと辛そうに。笑ってそう呟いた。



「ボクが先に伝えておけばよかったよ」

「何を?」

「英二に彼女ができたって」

「……」

「高橋さん、英二のこと……」



去年までのあいつのことは、聞きたいけど聞きたくない。そんな複雑な気持ちだった。

あーなんか、前に仁王が言ってたな。彼女とかの前歴は聞かないほうがいいって。なんでって、そんなの一番気になることじゃんって、赤也がまず疑問を口にしてた。



『“赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるの”とか無邪気に言うカワイイ女に限って、エグいことやっとるから』

『まぁ普通にそいつは頭も股も緩い女ってだけだろぃ』

『仁王サンが付き合うのって、だいたいそんな感じの人っスよね』

『俺はちょっと天然でピュアなカワイイ子にかけ引きされるのが好きなんじゃ。でも“あたし天然だよ”とか言いつつ実際違うんじゃ』

『自分で天然って言う天然はいねーよ』

『そもそもピュアな子はかけ引きしないっス』

『とにかく聞いてくれ。あれは俺が14だったかの。そろそろ卒業させてもらおうと思ったときの相手がな……』



こっから先の仁王トラウマ話はエグいっつーか生々しくて割愛するけど。

こんな話はきっとあいつには無縁だと。そう信じてる。

ただ、エグくなくても。マジな純愛でも。
聞きたくないってのは、わかった気がした。

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