な、うまいだろ

出来上がったクッキーは半分二人で食って、残りは二等分して袋に詰めた。

そして教室へ行った高橋を追うように、俺もこっそりE組に向かった。途中、C組からジャッカルを引っ張ってきて。



「何?それ」



前のドアのほうから教室内を覗くと、高橋はちょうど、すでに席についてた幸村にクッキーを差し出してた。

その後ろにはもう仁王も来てたけど、なんか携帯弄ってて前の席には興味なさそうだった。



「クッキーですっ!」

「クッキー?」

「幸村くんに渡そうと思って、作ってきました!」

「へー、俺のために」



幸村はそのクッキーを受け取ると、物珍しそうにジロジロ見てた。まぁそりゃそうだよな。いじめてた相手がいきなりクッキーって。毒かなんか入ってるって、疑うかも。

まぁそれは冗談として。受け取ったみたいだから、ちょっとホッとした。
てか、高橋の声はデカいから丸聞こえだけど、幸村の声はちょっと聞き取りづらい……、



「…おい、ブン太」

「なんだよジャッカル。静かにしろぃ」

「なんでこんなE組をこっそり覗いてんだよ」

「なんでって、心配じゃねーか」

「心配って、高橋がクッキー渡すことが?」

「そーだよ。てかマジで静かにしてろ。聞こえねーだろぃ」

「…なんで俺まで」

「お前もいたほうが万が一のときに慰めやすいじゃねーか……あ!」



いやお前のほうがうるさいだろってツッコミ入ったけど。

そんなことより大変なことが目に入った。俺のまさに心配してたことが的中。

クッキーを一旦受け取ったはずの幸村は、笑顔でそれを突き返してた。



「いらないよ」

「えええー!?」

「いらない。じゃ、俺トイレ行くから」



そう言って幸村は席を立った。

高橋は……こっちからだと斜め後ろ姿だからどんな顔してるかわかんねぇけど。やべーな、落ち込んでるかも。

と、それ以上にヤバい。幸村がこっちに来る…!慌ててジャッカル引っ張って隣の教室に隠れた。
隣のD組の連中が、あれ丸井くんたち何してるんだろとかちょっと騒ついてたけど、全部無視だ。こっそり見守ることに意義がある。

…何とか幸村には気づかれず、トイレに入る姿をこっそり見送って、またE組の入り口から覗いた。

さっきので落ち込んで、仁王にあげるのは断念するかなって、そしたら俺が全部食ってやろうって、思ってたら。



「仁王くんっ!」

「……」

「仁王くんにもクッキー作りました!」



全然落ち込んでなかった。幸村は諦めて、今度は仁王にチャレンジ。いや、落ち込まなくてそれはそれでよかったけど。なんつーかすげータフだな。ただ、

実は仁王のほうが無理じゃないかって、思ってた。赤也は、あの二人は女子に優しいとか言ってたけど、仁王のはあくまで騙すための優しさだからな。

そもそもあいつはクッキーとか好きじゃないし。他の女子からのお菓子もほぼ拒否ってる。無理矢理下駄箱や鞄に詰め込まれたやつは捨ててる。

見てみろよあの目。興味ねーって顔。こえー。

二人揃って断られたら、さすがにあいつも……。



「ああ、どうも」

「受け取ってくれますか!?」

「腹減ってたんじゃ。ちょうどよかった」



えええー!?って、高橋並みの声が出そうだった。
あの仁王が?なんで!?

ビックリしてる俺をよそに、さっそく仁王はクッキーを食い始めた。



「ど、どーですか!?ヒトデとクラゲとエイ型のかわいいクッキーですが…」

「んー…、うまいぜよ」

「やった……ッ!」



いやだから、それは星とスペードとダイヤだっての。心の中でツッコミつつ、その後仁王が取った行動にビックリした。

受け取ってもらえてうまいって言ってもらえて余程うれしかったんだろう、高橋はいつも通りバンザイして絶叫するところだったけど。
いきなり立ち上がった仁王に、手で口を塞がれた。



「だから、デカいんじゃって、お前さんの声」

「モ、モゴ…」

「これからはいきなり叫ぶの禁止な」

「……」

「返事は?」

「モゴッ!」

「よろしい」



ようやく手を離した仁王は、そのまま、高橋が持ってたもう一つのクッキーを奪った。



「これももらうぜよ」

「えっ!?」

「余っとるんじゃろ?俺腹減っとるから」

「やっ……!」

「……」

「…や、やたー」

「よろしい」



信じられないって、顔してると思う、俺。

まさか仁王がっていうのもあるし。あいつをいじめてるっていう話の割りに。
…何だか、ただ単にかわいがってるだけに見えちまって。それはまさに俺の言った通り。

かわいいから、逆にいじめたくなるパターン………、



「ブン太みーつけた!」

「ぅわ!」

「何してるの?」



完全に無警戒だった。振り返ったら幸村がいた。

俺の後ろに控えてたはずのジャッカルは、その直前に幸村に音もなくヘッドロックをかけられたみたいで、いまだ苦しそうにしてる。



「あー…ちょっと散歩だ。な、ジャッカル」

「あ、ああ…」

「ふーん。高橋さんの覗きだろ?」

「え!?」

「さっきからバレバレだったよ。仁王も気づいてたし」

「ええ!?」



驚いてたら、いつの間にか仁王も俺の後ろにきてた。口をもぐもぐさせて。

高橋は……なんかちょっとニヤけながら、自分の席でなんか書いてる。よく見えねーけど、手紙かなんかか?



「甘いのう、ブン太も」

「どうせ、彼女をいじめてほしくないんだろ?」

「何言ってん…」

「赤也から聞いたよ、いろいろとね」



はぁ!?あのワカメ野郎…!土曜話してたときはやたら気が回るって思ったけど、やっぱり赤也は赤也だ。

いじめてほしくないって、そんなんじゃ…なくはないけど。せっかくならこいつらともクラスの連中とも、立海のみんなとも、仲良くしてほしいとは思うけど。



「俺は別にいじめてないぜよ」

「俺だって」

「…ほんとかよ」

「まーちょっと、からかいたくなるけどね。反応おもしろいし」

「おもろいっちゅうかうるさいがな」



予想通りだけどよ。でもあいつは真面目っつーか純真だから。からかわれたりいじりであっても、嫌われてるって、思っちまってるから。



「あ、いいこと思いついたよ」

「?」

「蓮二が言ってたんだけど、今度青学と練習試合しないかって、お誘いがあったらしくてね。赤也たち後輩も含めて」

「…へー」

「それに彼女も、応援として誘ってみようか」

「え、高橋?」

「そう。青学がいるなら喜ぶよ、きっと」



そう笑った幸村は、女子に優しい女子にモテモテな雰囲気そのまんまなんだけど。
なんかちょっと、怖い気もした。

まさかとは思うけど、なんやかんややっぱり、あいつが青学ってことが引っかかってんのか?でも別に幸村自身が青学の連中を毛嫌いしてるわけじゃないと思うんだけど……。



「おい、仁王」

「ん?」

「なんでクッキー食ってんだよ」



俺トイレっつって輪から抜け出した仁王を、追っかけて聞いた。

素朴な疑問。たとえ仲良しな女子からでもほぼお菓子は拒否るこいつが、腹減ってるからとかで受け取るとか。捨てずに即食うとか。おまけに幸村の分まで完食するとか。



「あー、あれ、一緒に作ったんじゃろ」

「は?」

「昔お前さんにもらったしのう、ヒトデの」

「あれは星だっての」

「ブン太が作ったんならそれはもう友達として親友として食わんと……」

「嘘つけ」

「ははっ、ごちそーさん。あいつにも言っといて」



なんでなのか結局はぐらかされた。
ていうか、ヒトデだったからって、結局受け取ってからじゃないとわかんなかったはずだろ。それでも仁王は受け取って、すぐ食おうと開けたわけだ。

…よくわかんねーけど。
それより何よりあいつからのプレゼントをもらえた、そして受け取ったこいつが、ちょっと憎かったのかもしれない。

変なモヤモヤ感が残った。

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