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青木さんと悲願の番号交換をしてからは、夜寝る前にちょいちょいLINEのやり取りをする日が増えてきた。


今日練習むちゃくちゃ疲れた


それは大変でしたね。お疲れ様でした。




3日前のやり取り。関東大会連覇に向けて、真田筆頭にむちゃくちゃ張り切っとって、ここ最近練習はかつてないほどハードじゃき。青木さんに癒されたかった。


今日数学のテストで94点だった


それはすごいですね。数学が得意なんて羨ましいです。




先週のやり取り。部活メインの学校生活じゃけど、そこそこいい成績とっとかんと、うちは真田も参謀もうるさい。得意な数学でいい点取ったし、青木さんに褒めてもらいたかった。


今日焼肉定食頼んだら肉がちょっと減ってた


それは残念でしたね。円安の影響かもしれないですね。




今のはおとといのやり取り。大好物の焼肉定食が微妙に食べ応えなくてちょっとがっかりしたから、青木さんに慰めて欲しかった。


明日関東決勝


いよいよですね。頑張ってください。




そしてこれが昨日の夜、つまり最新のやり取り。

いつもこんな感じ。青木さんとこんな風に夜、プライベートな時間帯に文字でとはいえ会話ができることは、かなり喜ばしいことじゃ。

ただ。…なんとなく、引っかかる。


「仁王先輩、ご飯も食わずさっきからずっと携帯見てるっスね」


そんな赤也のヒソヒソ声が聞こえてきた。
今日は午後から関東大会の決勝。相手は青学っちゅう東京の学校。あの有名な手塚とか不二とかおるし、黄金ペアとか呼ばれる全国区のダブルスもおる。気を引き締めていけと、本日何回真田が言ったかわからん。

で、その前の昼飯時。俺ら立海のレギュラー陣は会場内の、屋根付きベンチがある休憩所みたいなところで飯を広げてる。暑い上にまだあとで試合もあるし、あんま固形物は喉を通らん。
が、俺以外のやつらはけっこう、モリモリ食っとる。それを横目に、ここ最近の青木さんとのLINEを見返してたっちゅうこと。


「仁王君、無理にでも何か食べておかないと、体力が持ちませんよ」

「あー」


柳生にそう心配されたものの、箸は進まない。まぁ柳生も柳生で俺の心配っちゅうよりかは、試合で自分の格好をするのにだらしなかったら承知しませんとかなんとか考えとるんじゃろ。あの作戦を提案したのは俺じゃし、仕方なく口にご飯を詰め込んだ。


「…なぁ、参謀」


隣で見張るように俺を見る柳生、ヤツの逆隣にいる参謀は、一旦手を止めて俺に顔を向けた。


「どうした、仁王」

「なんかこう……約束が違うじゃないかっちゅう感情が胸にこみ上げてきとるんじゃけど」

「何のことだ?」


そうすっとぼけとるが、俺が何を言いたいのか絶対わかっとる。参謀なら。更に俺がそれ以上ここで言えんこともわかっとる。参謀なら。

案の定何も言えずにいると、ブン太が口を開いた。


「何の話?」

「さぁな。この後大事な決勝戦だ。ここに来るはずと思っていた人物が来ていない、なんていうノー天気な不満でなければいいが」


フフッと笑いながらそう言った参謀。やっぱりわかっとるんじゃねぇかと、怒りを出したかった。

参謀は前、確かに言ったんじゃ。今後写真部=青木さんは、テニス部の試合に写真を撮りに来る=応援しに来ると。

なのに関東大会始まってから、写真部は来たが青木さんは全然見かけない。なんでも、テニス部担当は写真部内でむちゃくちゃ倍率が高く、青木さんは2年という弱い立場であり、必然的にテニス部ではなく卓球部の担当になっちまったと。マネージャーが言っとった。なんじゃ卓球部って。卓球部も全国常連らしいが、同じくネット挟んでラケットと球体を使う部としてニアミスにもほどがある。


「てかさ、映美はどうしたんだよぃ」


ブン太が赤也に話を振った。マネージャーと赤也は同じクラスじゃし、まぁ仲が良いんだと思う。そのマネージャーもなぜかこの場におらんくて(3年のマネージャーたちはおるけど)、ブン太はちょっと気になってたらしい。


「あー…映美は……、なんか用事じゃないっスか?」

「用事?関東大会決勝なのに?」

「えーっと…ま、まぁ、アイツにもイロイロあるんだと…」

「水野ならば今日は幸村の病院に行っているぞ」


口ごもる赤也に被せて真田が言った。そうそう、今日は幸村の手術の日じゃき。俺らの決勝並みに大事じゃから……。

そう思った瞬間、赤也が、ちょっと真田副部長!と慌てて声をあげた。制するように発せられたもんだから、真田はらしくなく少々驚いとった。

なんじゃ、言っちゃまずかったんか?真田もだろうし、俺もよくわからんって思った。


「…ふーん、そっか」


ただ、さっきまで飯だ飯だと浮かれとったブン太の声が、ほんの少しだけ暗くなったように感じた。


「水野だけでなく、写真部のクラスメイトも同行すると言っていたな」

「はぁ?」


付け足した真田の言葉に即座に反応したのは俺。自分でもびっくりなぐらい、素直に出た。今度は参謀が、みんなに聞こえるほどの盛大なため息を吐いとった。その参謀の心の声はわかる。“弦一郎空気読め”だろ。もしくは“黙れ”だ。


「なんで青木さんが幸村んとこに行くんじゃ」

「青木…というのか?彼女は。理由は知らん」

「知らんて、そこは聞いときんしゃい」

「マネージャーと最も仲が良いからな。ただの付き添いだろう」


そんな参謀のフォローも、あんまり救いにはならんかった。

もともと喉を通らんかったご飯。今は米一粒たりとも通らなくなった気がする。…状況の読めない柳生は、相変わらず俺を見張っとるが。

ブン太が落ち込んだ理由はわからんけど。もしかしたら、俺と同じなんじゃないかと。薄っすら予感がした。


これから決勝




そのメッセージに対する返事はずっと来なかった。一番手のブン太ジャッカルのダブルスが終わっても、俺のダブルスが終わっても。試合全部終わって、立海が負けても。

俺としては、優勝すると思っとった。たとえ幸村がいなくたって。アイツがいなくたって俺らだけでもやり遂げるって。
幸村が抜けて立海三連覇は無理だと、そう思ったやつら全員見返すと。半分、意地でもあった。


「幸村君の病院へ、行きませんか?」


いつもならそう言い出すのは真田か参謀。ただし今日この二人は負けたし、幸村に顔向けできんと思っとるんじゃろ、柳生の問いかけにどうするか迷っとった。赤也も、いつもならノリノリで行くっス!って言うのに、やっぱりこいつも顔を合わせづらそう。ブン太はブン太で、試合前からすでに元気があんまなかったし、なかなか首を縦に振らない。ジャッカルはそんなみんなの空気を察して、無言だった。

俺は……どうなんじゃろ。
青木さんは別に幸村と知り合いでもない。単にマネージャーの付き添いじゃき、全然大丈夫、ちゅうかむしろ幸村が心配じゃないんかいとみんなに言いたかった。

でも言えなかった。優勝できんかったからって理由じゃない。

誰にも相談できない。誰かの客観的な意見を聞くことができない。
“青木さんてもしかして…”って聞いて。
“どう見てもそうだ”と言われたくなかった。


「…仁王君」


誰も何も言わない状況に、柳生からヘルプの目が向けられた。どうするか。

そう思った瞬間、ポケットの携帯が鳴った。


試合お疲れ様でした。
今私も映美と金井総合病院にいます。仁王先輩もいらっしゃいますか?




さっき、真田からマネージャーに試合結果は連絡しとった。ついでに(って言うと最低か)、幸村の手術も成功したと、返信がきてた。

“行かない”、そう文字に打ち出してから、送るかどうか、むちゃくちゃ迷った。何をそんなに拗ねとるんじゃ俺は。
でも行ったら初めて、嫌でも見るであろう青木さんと幸村のショットに。絶対心の底から妬く。

ただ、俺が行かないって言ったらきっと青木さんからは、“そうですか、ではお疲れ様です。”って返ってくるに決まってる。“えー来てくださいよー”なんて絶対こない。絶対。

負けたっちゅう脱力感やら諸々の嫉妬により、イライラが最高潮だった俺は、結局そのまんまの文字を送った。


「俺は帰るぜよ」


柳生はえらく悲しげな顔をしたし、俺も帰ろうかなとブン太は言い出した。勝った連中がこんなんじゃ、真田たちも余計行きづらいじゃろな。ああ、やっぱり俺は性格悪いぜよ。

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