ただ会いたかった。謝るとかいつも通りにしてネとか俺の女になっちまえとか、何を話そうとは頭になかった。
とにかく、会いたかった。
でも、屋上には鍵がかかっとった。さすがに一時間目からは開いとらんかってあきらめたけど、二時間目、三時間目もその扉は開かなかった。
その日だけじゃない。次の日も、またその次の日も、
屋上の扉が開くことはなかった。
嫌われた―…。
そう、頭を過る。
よくよく考えてみれば当然な話。いきなりキスして。あいつと付き合っとるわけでもなし、ましてや好きとか伝えたわけでもなか。
あいつにとっちゃ、雰囲気に任せてキスしてきた男。ただの軽い男って、思われたのも仕方ない。
じゃあ、もういいか。また別にいろいろ話せる女見つけるか。そろそろ彼女もほしい時期じゃし。クリスマスとか冬はイベントあるし。
そう割り切ろうと思った。
でも、何故か、どうしてか、
いつものように、屋上に足が向かう。
もしかしたら今日は来てるかも。扉開けたらいつもみたく、あははーって笑いながらシャボン玉吹いてんじゃないかって。
そう願って、扉に手をかける。
そして数秒後、嘘みたく落ち込んで教室に戻る。
なーにやっとるんじゃろな…。
自分の席につき、ぼーっと前を見つめる。
最近、先生に誉められる。授業真面目に受けとるって。そりゃそうじゃ。サボる理由がなくなったし。ぼーっと前を見て考え込む時間も増えたし。
あれから何度か、あいつにメールをしようと思った。でも送信する手前でどうしてもストップがかかっちまって。電話も同じ。
あいつが同じクラスなら、せめて同じ2年なら、どこか廊下でばったり会ったり学年集会で見かけたりもあったんじゃろうが。
一つ学年が違うだけで、こんなに距離がある。勉強できんくせに、早く生まれやがって。
そんなふうに、あいつのことばかり考えて一日が終わる。
何日過ぎた頃だろうか。
俺はいつものように、屋上へ向かった。
今日は三時間目に音楽があって、もともとサボりたい時間。もし屋上が開いてなければ保健室でも行くつもりで屋上に行った。
あの日以来、閉ざされたままの、鉄の扉。まるであいつの気持ちを表してるようで、この重たい扉が嫌いになりつつあった。
―ガチャッ…
どうせ回らないと思ったノブ。重たい扉も開かなければただの壁だと思ってた。
でも、俺の手に重みが加わり、扉は、開いた。
開いたんだ。
やっぱり屋上はめちゃくちゃ寒かった。もう冬じゃし、当たり前だが。頬っぺたに当たる風が冷たくて痛くて。
でも、目の前にあいつを見つけると。
寒空の下、大の字になって寝転んでる葵を見つけると、急に頬っぺたがあったかくなるように感じた。
おいおい、俺もしかして顔赤くなっとるんか?…カッコ悪。
「葵…。」
あまりにも小さく呟いた、名前。起こしたかったけど、起こして何話そうって、今さら考えとる自分。さらにカッコ悪。
会いたくて、会いたくて、会いたくて。
胸が締め付けられるように痛かった。
何であんなことしたんじゃろって後悔ばかりした。
夜は明日は会えるだろうかと期待しながら寝て、
朝は今日こそ会えますようにと願って起きて。
カッコ悪いのう、俺。
それにしても、よく見たらこいつ寝相最悪じゃなか?パンツ見えとるし。
でもまぁ、こんなやつだからこそ―…。
結局、俺は爆睡中の葵を起こすことはできんかった。自然に起きるのを待とうと思ったが、いろいろ今までのこととか考えとったら落ち着かなくなって。起きた瞬間どうしようとかいきなり逃げられたらどうしようとか。
とゆうわけでこの場を去ることにした。
はいはい、俺はへたれです。
でも何か、俺が来たって痕跡を残したい。
真っ先に思いついたのは、
シャボン玉。
いつか一緒に吹こうと思って鞄に入れといたもの。
それを枕元(鞄)に置いて、
屋上を後にした。
いつもだったら、帰り際の下り階段は憂鬱だった。ありえんくらい肩を落として教室に引き返しとった。
でも今日は、スキップでもしたいぐらいに浮かれてた。
シャボン玉、受け取ってくれるといいんじゃが。
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