06 雨に濡れた子ども

本来なら勉強なんて嫌いじゃ。やらんでも並みにはできる、テスト直前でもなきゃやらん。

でも、テスト直前じゃ危ないやつがここにおる。



「見て見て。」

「ん?」

「真田。」



ノートの端っこにとかゆう遠慮は一切なく、真ん中に堂々と描かれた落書き。

どうやら真田らしい。帽子と目元のシワぐらいしか似とらん。



「へたくそ。」

「うまいじゃん!…ここ!この眉毛の角度とか。」

「俺のがうまいぜよ。」



さらさらっと、俺もノートのど真ん中に似顔絵を描く。



「誰それ?」

「お前さんじゃ。」

「は!?似てないし!」



興奮気味に葵は立ち上がる。と、



「ゥォッホン!」



貸出カウンターの向こうから、イライラ調の咳払いが聞こえてきた。

そうじゃ、ここ図書館じゃった。当然、周りからめちゃくちゃ注目受け取る。

当の本人、葵は、ごめんなさーいってまったく反省したような態度は見せず、笑って座り直した。



「ねー、もう飽きた。」

「もうってか最初からじゃろ。」

「どっかいこーよ。」

「……。」



何言っても譲らなそうだった。それどころか騒ぎだしそうで。

面倒だっていうのもあるし、
あと俺自身もどっか行きたくなった。

勉強って、始めるまでは時間かかるくせに終わるのは一瞬じゃな。

さっさと片付けて、外へ出た。



図書館を出て、駅前に向かった。さすが日曜なだけあって人がものすごい多い。まさに“人ごみ”。こんなうるさい場所は大嫌いじゃ。



「雅はさ、彼女いないの?」



途中で買ったたこ焼きを食べながら質問された。いつもじゃけど、こいつは質問が大好き。俺に関するあらゆる事項を聞いてくる。しかもバカのせいか記憶力が悪くすぐ忘れる。もしかしたら始めから聞いてないのかもしらんけど。だから同じような質問ばかり繰り返す。俺が内緒と答えるものだって何度も聞いてくる。

でも、この質問は初めて。



「おらんよ。」

「ふーん。作らないの?」

「機会があれば。」

「雅モテてんじゃん。」



こいつは友達も少ないから、俺についての噂とかあんま知らんような感じ。つまりは俺が“恋愛は短期集中型”なんて言われとるのも知らんじゃろ。



「お前さんは?」

「はひ?」

「彼氏、いらんの?」



酷な質問かもと思った。こないだ別れたことに泣いとったのに。



「しばらくいいって思って。」

「へぇ。」



正直、俺にはその気持ちがわからんかった。だって、隣には絶対誰かいたほうがいいに決まっとる。一度付き合いだすと止まらないこの感覚。失いたくない、それは寂しいというだけの意味で。好きだからとか俺のものでいてほしい。そんなロマンチックな感情、俺にはまだなかった。

だからなんでこいつがしばらくいいって思ってるのかその気持ちがわからんかった。



「雨ら。」



たこ焼きを頬張りながら葵は呟いた。え?と思ったけど、立ち止まり上を向きジッとするとぽたっと、雨が頬っぺたに当たった。



「よく気付いたのう。」

「あははー。」



誉め言葉と勘違いしたのかうれしそうに笑う。

と、その間に雨が強くなってきた。



「わー!走ろう!」

「は?」



葵は俺の手首を掴んで走り始めた。雨宿りするとかコンビニで傘買うなんてことするつもりはないらしく、住宅街のほうへ。

そして飛び込んだマンション。オートロックの入り口、向こう側には管理人さんが見えた。



「勝手に入っちゃまずいんじゃなか?」

「ここうち。」



葵ん家?

瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。

てきぱきとオートロックを解除し、中に入る。俺はというとどうしていいのかわからず、葵も何も言わんから後ろからついてった。

エレベーターのボタンを押す。



「…行っていいんか?」

「もちろん?」



不思議そうな顔するが、それは俺の顔じゃ。人ん家なんて、そうそう入らん。ましてや日曜。親もおるじゃろ。

6階で降り、洒落た造りのドアを3つ4つ通りすぎ、

608。“山下”と書いた表札が目に入った。



「どうぞ。」

「…お邪魔します。」



控えめに挨拶をし、中に入る。

中は暗くて誰もおらんようじゃった。



「誰もおらんの?」

「あれ?いない?買い物かな。」



葵も予想外だったらしく、すたすたと廊下を歩き奥へ。その跡には水。そうそう、俺らずぶ濡れだった。



「いなかった。まいーや、上がって。」



俺の胸元へ放り投げられたタオル。
軽く髪を拭きながら。

別に期待しとらんし、と思ってる自分に、ああ期待しとるんじゃなって気付いて。
自分がおかしかった。

女はそゆとき、どうゆうつもりなんじゃろ。

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