でも周期的に回ってくる。
「ちょっとトイレ。」
なんてな。サボることにした。
どこ行くか。
いつもなら保健室じゃけど、掃除の時間はどこも生徒だらけ。うーん。
フラフラと、たどり着いた先は、屋上。
ここなら誰も掃除せんし、ゆっくり昼寝もできる。
あーでも、鍵閉まっとるよなー。
そんなこと考えながらもちょっと期待してドアに手をかけると、
―ガチャ。
ノブが回らん。開いてない。
どーするか、と階段を下ると、
「あれ?柳生君!」
下から上ってきた。
先輩。
まだ辞書返してもらっとらん。泥棒先輩じゃ。
「あ、もしかして屋上?」
「開いてないすよ。」
「あはははー、ジャーン!」
泥棒先輩は、得意気に鍵を見せた。
「まさか屋上の?」
「まさかですよ!」
「何で持っとるんじゃ。」
「細かいこと気にしない!ささ、どうぞ。」
先輩のものじゃないのに、屋上にエスコートされた。
初めてきた、屋上。
てか寒い。この季節、屋上は失敗かのう。
「柳生君も掃除サボり?」
「先輩もじゃろ。」
「あはは。…てか柳生君どこ出身?」
そのまま、いっろんなこと聞かれまくった。素直に答えたり、答えたくない質問は躱したり、嘘も混ぜたり。
よくわからんけど、かっこよく見せたくて。自分をいいように、表してたかも。
時間はあっという間に過ぎてった。
「柳生君、あのね、」
「?」
「あたし、柳生君に嘘ついた。」
嘘?
俺はさっきからしょっちゅうついとるけど。
てか、柳生って名前自体嘘じゃな。
「あたしね、…野球部マネじゃないの、もう。」
けっこうどうでもいい嘘じゃった。俺にとって。
もし、実は3年じゃないの、とか、この学校じゃないのって言われたらどーしようかと。いや、別にいいけど。
でもちょっと気になった。
もうって、何じゃ?
「あたしクビになったんだー。野球部のマネージャー。」
思わず、口をぽかんと開けたら、あはははーって、またいつものようにアホらしく笑われた。
だってクビって。義務教育の中等部でクビって、あんまないじゃろ。
何やったんじゃ?犯罪系?
「野球部員とね、やっちゃった。」
「…は?」
やっちゃったって、そういうこと?
文字通りの、そんな関係?
「野球部って、選手とマネージャーの交際禁止なの。今どき古くない?」
「……。」
「でもさ、やっぱいつも練習とか試合見てると…、我慢できなくなっちゃうってゆうか。」
お前は発情期の動物か。
つっこまずにはいられんかった。
「で、野球部の…、まぁ一番憧れてた人と、できちゃったわけ。」
「それがばれて?クビ?」
「クビってゆうか、あたしが辞めたの。相手、野球推薦で進学するからさ。あたしが辞めるしかないじゃん。」
それはお気の毒。と言おうと思ったけど、
俺は止まった。
先輩が、泣いてる。
「だから…、ボール拾い…、できるのがうらやましかった…。」
涙声でうまく聞き取れなかったけど、どうやら、マネージャーを始めたての頃、練習中はずっとボール拾いをやってたらしい。ていうかボール拾いしかできなかったらしい。不器用過ぎて。
でも慣れてきたら後輩に押しつけることも多くなって。
なのに今になって、ボールに触れること、選手と一緒にグラウンドにいれることがどんなに幸せだったか。
痛いって。
泣いた。
「相手も、関西の高校にいっちゃうし。」
「遠恋?」
「いや、別れた。」
ああ、ますます可哀想に。
部活も失って、好きな人も失って。
これからどーすんじゃろ。
「何かいいことないかなぁ。…グス。」
先輩なのに。目の前で泣きまくって挙げ句の果て鼻水ぐずつかせたこいつは、かっこ悪い。
でも、真っ直ぐさが伝わってきた。
きっと全力で、野球が好きで、部活が好きで、
全力で恋しとったんじゃろな。
「先輩、」
「ん?」
「名前、教えて。」
先輩は、泣いてたのに、笑った。まだ言ってなかったっけあははーって。
「山下葵だよ。」
あだ名はないから好きに呼んで、だって。
遠慮なく、名前で呼ばせてもらう。
「葵、」
「いきなり呼び捨てかよ、あはは。」
「俺の名前も知っといて。」
「え?名前、柳生……、」
俺は胸ポケットから生徒手帳を出す。顔写真付きの。
「仁王…雅治?」
「そう。俺の名前。」
「あれ?…柳生?あれ!?」
ようやく、騙されたことに気付いたらしい。
まぁ、騙した俺も悪いが。
「あだ名ないから適当に呼んで。」
「ふーん。じゃあ、雅で。」
「いきなり呼び捨てか。」
「年下なんだから当然でしょ。」
その後、本物の柳生の正体とか話してたらHRにも遅刻して。先生に怒られてたら部活も遅刻して。
また真田に殴られた。
でも、何だか気分は悪くなかった。
葵か。ようやく、聞けた。
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