04 かっこ悪い先輩

教室掃除。大嫌いじゃ。
でも周期的に回ってくる。



「ちょっとトイレ。」



なんてな。サボることにした。

どこ行くか。
いつもなら保健室じゃけど、掃除の時間はどこも生徒だらけ。うーん。



フラフラと、たどり着いた先は、屋上。
ここなら誰も掃除せんし、ゆっくり昼寝もできる。

あーでも、鍵閉まっとるよなー。
そんなこと考えながらもちょっと期待してドアに手をかけると、



―ガチャ。



ノブが回らん。開いてない。

どーするか、と階段を下ると、



「あれ?柳生君!」



下から上ってきた。
先輩。

まだ辞書返してもらっとらん。泥棒先輩じゃ。



「あ、もしかして屋上?」

「開いてないすよ。」

「あはははー、ジャーン!」



泥棒先輩は、得意気に鍵を見せた。



「まさか屋上の?」

「まさかですよ!」

「何で持っとるんじゃ。」

「細かいこと気にしない!ささ、どうぞ。」



先輩のものじゃないのに、屋上にエスコートされた。

初めてきた、屋上。
てか寒い。この季節、屋上は失敗かのう。



「柳生君も掃除サボり?」

「先輩もじゃろ。」

「あはは。…てか柳生君どこ出身?」



そのまま、いっろんなこと聞かれまくった。素直に答えたり、答えたくない質問は躱したり、嘘も混ぜたり。

よくわからんけど、かっこよく見せたくて。自分をいいように、表してたかも。

時間はあっという間に過ぎてった。



「柳生君、あのね、」

「?」

「あたし、柳生君に嘘ついた。」



嘘?

俺はさっきからしょっちゅうついとるけど。
てか、柳生って名前自体嘘じゃな。



「あたしね、…野球部マネじゃないの、もう。」



けっこうどうでもいい嘘じゃった。俺にとって。

もし、実は3年じゃないの、とか、この学校じゃないのって言われたらどーしようかと。いや、別にいいけど。

でもちょっと気になった。

もうって、何じゃ?



「あたしクビになったんだー。野球部のマネージャー。」



思わず、口をぽかんと開けたら、あはははーって、またいつものようにアホらしく笑われた。

だってクビって。義務教育の中等部でクビって、あんまないじゃろ。

何やったんじゃ?犯罪系?



「野球部員とね、やっちゃった。」

「…は?」



やっちゃったって、そういうこと?
文字通りの、そんな関係?



「野球部って、選手とマネージャーの交際禁止なの。今どき古くない?」

「……。」

「でもさ、やっぱいつも練習とか試合見てると…、我慢できなくなっちゃうってゆうか。」



お前は発情期の動物か。

つっこまずにはいられんかった。



「で、野球部の…、まぁ一番憧れてた人と、できちゃったわけ。」

「それがばれて?クビ?」

「クビってゆうか、あたしが辞めたの。相手、野球推薦で進学するからさ。あたしが辞めるしかないじゃん。」



それはお気の毒。と言おうと思ったけど、

俺は止まった。

先輩が、泣いてる。



「だから…、ボール拾い…、できるのがうらやましかった…。」



涙声でうまく聞き取れなかったけど、どうやら、マネージャーを始めたての頃、練習中はずっとボール拾いをやってたらしい。ていうかボール拾いしかできなかったらしい。不器用過ぎて。

でも慣れてきたら後輩に押しつけることも多くなって。
なのに今になって、ボールに触れること、選手と一緒にグラウンドにいれることがどんなに幸せだったか。

痛いって。
泣いた。



「相手も、関西の高校にいっちゃうし。」

「遠恋?」

「いや、別れた。」



ああ、ますます可哀想に。

部活も失って、好きな人も失って。

これからどーすんじゃろ。



「何かいいことないかなぁ。…グス。」



先輩なのに。目の前で泣きまくって挙げ句の果て鼻水ぐずつかせたこいつは、かっこ悪い。

でも、真っ直ぐさが伝わってきた。

きっと全力で、野球が好きで、部活が好きで、

全力で恋しとったんじゃろな。



「先輩、」

「ん?」

「名前、教えて。」



先輩は、泣いてたのに、笑った。まだ言ってなかったっけあははーって。



「山下葵だよ。」



あだ名はないから好きに呼んで、だって。

遠慮なく、名前で呼ばせてもらう。



「葵、」

「いきなり呼び捨てかよ、あはは。」

「俺の名前も知っといて。」

「え?名前、柳生……、」



俺は胸ポケットから生徒手帳を出す。顔写真付きの。



「仁王…雅治?」

「そう。俺の名前。」

「あれ?…柳生?あれ!?」



ようやく、騙されたことに気付いたらしい。

まぁ、騙した俺も悪いが。



「あだ名ないから適当に呼んで。」

「ふーん。じゃあ、雅で。」

「いきなり呼び捨てか。」

「年下なんだから当然でしょ。」



その後、本物の柳生の正体とか話してたらHRにも遅刻して。先生に怒られてたら部活も遅刻して。
また真田に殴られた。
でも、何だか気分は悪くなかった。

葵か。ようやく、聞けた。

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