朝は調子よかった。今日は朝練なくてちょっと遅く起きて、ご飯は俺の好きな白味噌の味噌汁。星座占いも割とよかった気する。
なのに。
「仁王、こっちへこい。」
朝、校門で待ち構えてた。鬼。更け顔。
風紀委員なんか大嫌いじゃ。
俺以外にも何人か、引っ掛かったやつはおって、一同に会議室に呼び出し。正座をさせられ説教を受けとる。
パッと見渡すと、同じテニス部の丸井もいた。そりゃ俺引っ掛かって赤い髪引っ掛からんかったら、PTAに抗議じゃ。
「まったく、お前たちのそのたるんだ風貌はなんだ!」
否定はしないけど。
正座に説教はマジ勘弁してほしいのう。
「あのー…、」
真田の説教がガオーと響く中、女の声が聞こえた。
あれ、どっかで聞き覚え…、
「そろそろさ、終わりにしない?」
悪怯れもせず、正座が限界だったんだろう膝で立つ女。
…あ、やっぱ。
みんなが注目する。
「あたし今日、英語当てられてんの。でもまだやってないの。辞書忘れちゃったから時間かかんの。だからもう終わろうよ。」
「む!それもたるんどる!」
「あー!」
思い出したように叫んで立ち上がった。丸井だ。
「俺も数学やってねぇ!やべ、ジャッカルんとこいかねーと!」
「お前もたるんどるぞ!いつもいつもジャッカルに…、」
それを皮切りに、みんな騒ぎだす。あーあれやってない、これ忘れた、とか。
こんなとこに呼び出されてるやつらはやっぱ、そんなもんじゃろな。
―キーンコーンカーンコーン…
そうこうしてるうちに、予鈴が鳴った。真田も渋々、解散させた。
みんなガヤガヤ帰りだす。
丸井はまだ真田に説教されとるけど。
ほっといて、探した。あいつ。
急いでた割に、まだ膝で立ったまま腕を組み、困った顔しとる。
「早く帰らんと真田に捕まりますよ。」
目の前にかがんだら。ビックリした顔。
そりゃそうじゃろな。俺が英語の電子辞書差し出したから。
別に成績悪くないが、3年の英語はわからん。手伝ってやれんし。
「貸してくれるの?」
「パクらんなら。」
「ありがとー!」
初めて笑顔見た気がした。今までは笑っててもアホみたいな笑いやったし。たいして顔も見とらんかったし。
意外と美人さん?
いや、こないだとは顔が違う。…て、失礼。今日は化粧しとるんかな。
「じゃ、あいつが捕まっとるうちに出ますか。」
俺が立ち上がり、それを見てそいつも立ち上がった。が、
「…ごめ!」
俺にガシッと、捕まってきた。
なんだ?と思ったのは一瞬。すぐに、足が痺れてんだと、気付いた。
「だっさ。」
「う、うるさいっ。だいたい何で君痺れてないの!」
「俺は部活で鍛えられとるし。」
「あたしだって、部活で…!」
と言ったところで止まった。
あ、この人の部活、聞いとくか。
「先輩、部活何入ってるんすか?」
「え?あ、えーっと…、や、野球部のマネ?」
何で疑問系?
ああ、でも納得した。だからボール拾いがどーのこーの言っとったんか。
「じゃ、じゃあ、あたし足治ったからいくわ!じゃね!」
フラフラの足取りで会議室を出ていった。絶対まだ治ってないやろ。
…あ、しかも名前聞き忘れた。部活よりそっちのが重要なのに。
チラッと見ると、やっと丸井の説教が終わったみたいだった。
その後、丸井からやたら感謝された。俺のために待っててくれたんだなって。お前いいやつだな、ありがとうなって。
まったく違うけど、とりあえずそーゆうことにしといた。
3年、野球部のマネージャー。
次こそ名前じゃ。
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