ばちーんと、音が校庭中に響く。
この制裁、代々続いてんだか知らんが、俺は大嫌いじゃ。親にも殴られたことなか。
いつかこいつのこと、一発殴っちゃる。そう、試合で勝つ以外の目標もできた。
「しばらくボール拾いだな。」
参謀。こいつも部長や副部長でもないくせにえらそうにしやがって。
ただ、真田とは違ってそれ以上に教わることもある気がするんで、黙って従う。
ボール拾いは始めると意外とおもろかった。
最近、ちょっと部活がつまらんかった。レギュラーになれたはいいが、元々レギュラーだったやつからのプレッシャーとか、意外と刺々しいレギュラー練習とか。そもそもレギュラーメンバーがはっきり言ってあんま好きじゃない。
真田はあんなんじゃし、柳は小言がうるさいし、丸井は見るからに目立ちたがり屋じゃし、部長は…あんましゃべったことないが。ジャッカルは宿題係じゃな。
まぁたまには気晴らしになるかもな。ボール拾い。いろんなとこに転がってるボールを、リズムよくひょいひょい拾う。
「…あれー?」
下を向いてたら、どっかで聞き覚えのある声が響いた。
顔を上げて、俺は顔をしかめる。
…誰だっけ。
「柳生君!」
いや、違いますって言いそうになったけど堪えた。同時に思い出した。
あのときの、3年。
「なになにー、ボール拾い?」
「…そうっす。」
見てわかんだろ。
ついでに、レギュラーなのにボール拾いさせられてるその意味もわかんだろ。真っ赤な頬っぺたも。
「えらい!」
肩をバシンと叩かれた。
なにがえらいんじゃ。かっこ悪いじゃろが。
「ボール拾いは練習の基本だからね。スピード上げればフットワークにもなるし、いろんなボールにいっぱい触ることも大事だし、」
「……。」
「何より、そーゆう雑用を自らやろうって心意気が素晴らしい!」
ぽんぽんと、今度は優しく背中を叩いた。
「いいプレイヤーになるよ、柳生君。」
そう言って、去っていった。
ボール拾いは自分から始めたわけじゃないし、俺の名前は柳生じゃなか。
でも何故か、心に響いた。
いろいろ、息詰まってた俺の心に。
それから俺は、ボール拾いを積極的にやるようになった。
同時進行で、あの3年の正体も気になった。
名前も知らんし。
部活も知らん。
またどっかで急に現れるんかな。
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