14 迫られる選択

「お、見てみんしゃいこの娘。前深夜ばっか出とったのに。最近普通に出るようになったのう。」



やっぱかわいいのーと、俺が言ったところではぁーと深あいため息が聞こえた。



「…いつになったら帰るんです。」

「俺が立ち直るまで。」



再びはぁーと聞こえた。そんなあからさまに嫌そうな態度とんなって。

今俺は柳生ん家に来てて。柳生の部屋のテレビを独占しとる。ソファーでゴロゴロしながら。かれこれ2、3時間。



「明日の予習がしたいのですが。」

「えっ、ピロシさんは毎日予習をやってらっさる?ほほー、真面目じゃなー素敵じゃなー。」

「……。」



あ、ちょっとイラッときとる。すまんすまん。

なんでこうなってるかとゆうと、話は何時間か前にさかのぼる。




「誰のせいだと思ってるの。」



そう、謎の言葉を残して葵は去っていった。もしかしたら目にいっぱい涙溜まってたかもしれない。背を向けた瞬間号泣しとったかもしれない。

でも俺は、謎の言葉に混乱してて。しかも葵のことも意味わからなくなっちまって。その場に体を硬直させた。

すぐ近くにいた柳生は、表情こそ変えなかったが内心俺以上に意味不明だったろ。何も聞かないし何も言わない。かといって追いかけもしなかった。当たり前だが。

問題は、俺の目の前にいた男。まぁおそらく葵の元カレじゃき仲良く話する気もなかったんじゃけど。



「…なんとなく気まずくないか?」



半笑いでそう言いやがった。

なんとなく?気まずい?お前どの口がそう言っとるんじゃと、キレそうになった。おまけにこーゆう展開はじゃな、彼氏が呆然としてるうちに元カレのお前が追いかけんかい。そんで君のことほっとけないんだって言うのがパターンだろ。

…と、アホらしいことを考えてた。



「仁王…だっけ。追いかけなくていいの?」



なんで俺に聞く?

俺としてはてっきり、お前には渡さない!って新旧争いになるかと思ったんやけど。さもなくば、傷つけやがって許さん!とか。



「一応、誤解してるみたいだから言っとくけど、」

「…?」

「俺とあいつは今なんもないから。あいつは今仁王一筋だし。」



それだけはわかってやってくれって。なんか頼まれた。

なんじゃ、混乱してきた。確か、こいつとあいつが一緒にいて俺が怒ってあいつが怒って帰っちまった…んだよな。しかも二人は別に怪しむ仲じゃないって?

単純に俺の勘違い?ただの嫉妬?
でもそれじゃ、“俺のせい”ってのが解決できない……、



「あいつ今日ケガしてさ。」

「おでこの、ですか?」



ようやく柳生が口を開いた。俺がまったく何も返事もしなかったからじゃろ。失礼だと思ったんかな。一応、相手は先輩だしな。



「そう。何でかってゆうと……、」






「仁王君、そろそろ帰ってください。」



俺が握り締めていたテレビのリモコンを取り上げ、腹に乗せていたクッションも奪った柳生は言い切った。



「冷たいのう。」

「いつまでもうじうじしてるのは目障りです。」



うっわ、ちょーひど。それでも俺の親友か?冷たいやつ。

でも段々と柳生の機嫌が悪くなってきたし、そろそろ帰るか。

立ち上がり、今までお世話になりました、と大袈裟に寂しんでみせた。

柳生家のご家族にもお邪魔しましたと挨拶をすると、またいらっしゃいねと暖かい言葉をくれた。



「ただ、」



俺が玄関を出る寸前、柳生は言い出した。



「仁王君が謝ることではないと思います。」



俺のせいでも?つーかお前さんもさっき仁王君のせいであることは確かって言い切ったじゃろ。



「何か、別の言葉をかけてあげるべきでしょう。」



別の言葉?意味わからん。状況もよく知らない中でどうしろっちゅうんじゃ。



「では。」

「…ああ、また明日。」



パタンと扉を閉められると、一層孤独感が増した。

家に帰るかー…。それかあいつんとこ行く?でも行ったからって、どうしよう。今会っちまえば確実に……、

別れるだろう。
でも別れたくない。





「あいつ、嫌がらせ受けてるんだよ。」

「…は?」

「学年違うから知らないだろうけど。前から。友達も全然いないし。」



友達少ないのは知っとった。知っとったけど…。

嫌がらせ?イジメられとんのあいつ?



「前はそんなひどいもんではなかったよ。仲間外れってゆうか、クラスで一人孤立してた。まぁ、あいつ自身も最初から誰とも絡もうとしなかったし。」



確かにそんな雰囲気はある。だからいつも屋上にきてたのか?シャボン玉で、一人で遊んで、気を紛らわせてたのか?

胸が痛くなった。



「でもいつもひとりぼっちってのは、どう考えてもつらいし。だから俺はあいつと仲良くなることにしたんだ。マネージャーにも誘った。」



それでか。
他人を世話できるようなタイプでもないくせに、マネージャーなんかやってたのは。

それからその元カレさんは、いろいろ話してくれた。全部ホントか、ある程度脚色してんのかは判断つかんけど。

マネージャーとして入部した後は、今まで見せたことないぐらい明るくなって。不器用だから食事とか裁縫とかはできなくても、ボール拾いは誰よりもやって。最初はこの先輩としか話さなかったけど、次第に打ち解けて、みんなで毎日楽しく部活をしてたって。

でもある日、あいつとこの先輩が付き合うようになって。事態が変わった。

あいつへの嫌がらせが、あからさまになってきた。

もともと野球部は部活内恋愛禁止なだけに、その反響はひどかったろう。



「だから別れたんだ。」



ずいぶん無責任だ、と思った。
でも確かに、それが一番シンプルな解決法。

別れたから、部活もやめる必要なかったのに、あいつは驚くほどすんなり自主退部したらしい。相手にこれ以上迷惑かけないために。
この先輩のことが、何よりも大切だったから。

だからって、でも俺は、簡単に手を離すような逃げる真似はカッコ悪いと思った。別れたってあいつがつらくなることは間違いなか。

だから、カサイ先輩が最後に言った言葉が、やたら腹立たしかった。



「あいつが一番欲しいのは、友達なんだよ。」



彼氏じゃなくて、と。

それは俺にも同じ道を選択しろと、言ってるのか。

よくよく考えれば、俺の状況と似てる。

元カレさんも、自分から好きになって告白したって言ってた。あいつはたぶん、自分を好きになってくれたことがただうれしくて。自分を愛してくれるからこそ自分も相手を愛する。

友達はいない。自分からも近づけない。だからこそ、自分の傍にいてくれる人が欲しかったんだ。

恋か友情か、わからずに。
あいつは彼氏とか云々はどっちでもよくて、
ただ仲良く楽しく過ごせる相手が欲しかっただけなんだ。

それを失ってまたひとりぼっちになった。そのときに出会った俺。

なんとなく感じてた、一方通行な思い。
謎はすべて解けた。犯人は、
俺か?






結局、俺と付き合うことでまた嫌がらせが復活した。特に俺の場合、ファンが過激派らしく武力行使も厭わないだろう(どんだけ物騒なんじゃ)って、柳生に言われた。あのケガは、そのうちの一つ。やっぱり俺のせい。

帰り道、なんとなくやるせなくなって、嫌がる柳生の家に無理矢理乗り込んだ。



別れるんですか?
柳生に聞かれたけど、答えられなかった。

そういえば前付き合ってた女たちも、なんだかんだ嫌がらせ受けてたっけな。他のテニス部員の彼女もそーゆうことあったって聞いたことあったかも。

わかってたのに、なんで気付かなかったんじゃろ。あいつが元気ないことすら。自分のことしか考えてなかったんかな。

そりゃ別れれば事態は終わるんだろうが、そしたら、あいつはまたひとりぼっちじゃないか。

そんなことを考えながら、俺は寄り道もせず自分ん家に、帰った。

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