11 信じたくないもの

「明日暇なやつー!」



部活が終わってみんなが制服に着替えている途中、丸井が大きな声で呼び掛けた。

明日ってゆっても部活終わったあとなら7時とか。みんなそのあとの予定なんてただ家に帰るだけじゃろ。



「何かあるんスか?」

「こないだ駅前通りに焼肉屋できたろ?今日割引券配ってたんだよ、ほら。」



丸井はがさがさと制服のポケットから紙切れを出した。



「おー!行きたいっス!」

「よーし決まり!ジャッカルも行こうぜ。」

「行っとくがお前らの分の金はねーからな。」

「「チッ。」」



焼き肉か。そういや最近食ってないのう。俺は部活のやつらと焼き肉は行ったことはないが。



「へぇ、いいね。俺も行っていいかな。」

「おー、もちろんだぜ。」

「幸村部長が焼き肉ってなんか珍しいっスね!」

「フフ、たまには食べたくなるんだよね。」



ってことはメンバーは丸井、赤也、ジャッカル、幸村、か。

いいな。けっこう、楽しそうじゃの。

しかも今の赤也の発言からすると、このメンバーでけっこう行ったりしとるっぽい。いいな。



「仁王も行くだろ?」



幸村が俺に話を振った。俺も?

確かに丸井はこの部室にいるやつら全体に声をかけとるようじゃったから、俺も誘われてるってことじゃ。

俺も行っていいんかの。



「あー、仁王先輩はだめっスよ!彼女サン待ってるっスよね?」



赤也がすかさず俺の代わりに答えた。

彼女サン。確かに葵はいつも図書館にいるけど…、

別に、はじめから友達と飯食いいくからって言っとけばいいじゃろ。そしたらあいつも好きな時間に帰れるし。



「仁王も行こうぜ。たまには付き合えよ!」



ちょっとうれしかった。俺はいつも彼女優先しちまうから、それでも誘ってくれるっちゅうのは。しかもちょうど最近部活のやつらと一緒にいるのが楽しくなってきた頃。

1日ぐらい、いいじゃろ。



「おう。俺も行く。」



帰り、葵に明日のことを話すと、葵は笑顔でいいよって、言ってくれた。楽しんできなよって。

それ聞いて安心した。やっぱ恋愛と友情なんて別物じゃき、どっちかを優先しなきゃいけないことなんかない。
そう、信じてた。





「いやー食った食った!」

「丸井先輩は食いすぎっスよ。」

「ま、いつものことだな。」



次の日、部活帰りに焼肉屋に行った。久しぶりの焼き肉はうまかったし、こいつらと来たのは初めてで、楽しかった。あとブン太の食いっぷりにびっくりした。



「さーて帰るか…あ、プリクラ撮ろうぜ!」



ゲーセンを前にしてブン太が叫んだ。



「えー男ばっかで撮ってもつまんないっス。」

「ばーか、必勝祈願だよ!」

「いいね。赤也、撮るよ。」

「…うぃっす。」



俺はどっちかっつったら赤也に同意だったんじゃが。ちょっと迷って、でも俺もなんだか幸村にはさからえん。撮ろう。

ブン太たちに続いてゲーセンに入ろうとして、

ふと、本当にふと。何か感じるもんがあったんじゃろうか。

俺はなんとなく、左を向いたんじゃ。

ゲーセンの左隣にはマックがあって。そのマックから出てきた。

立海の制服を着た、男と女。

二人は、俺の視線にも気付かず逆方向に歩いていった。



「仁王、どうした?」



なかなか俺が中に入ってこないことを気にしたんだろう、幸村が俺のとこに戻ってきた。

そして、放心状態の俺の顔を覗き込み、見つめる先を辿る。



「…あれって、」



すぐに幸村は口を結んだ。後ろ姿の二人。一目見て今のその状況に気付いたんだろう。

男と女。まるでカップルのような二人。

女のほうは、葵だった。

そして、男のほうは、坊主頭。

校則が自由すぎる立海において、男が坊主頭にする理由は一つ。野球部。

すぐに、元カレだって、気付いた。



なんで一緒にいるのか。もしかしたら偶然マックで会ってちょっとだけ一緒に勉強してたとか、昔の話や野球部の友達の話に花が咲いたのかもしれない。それで時間も時間だからお互いもう帰ろうかってなったのかもしれない。たまたま同じ方角に家があるのかもしれない。

いろいろと頭を巡るけど、どれもピンとこない。

こんなの浮気なんて言えない。ただ一緒にいるだけ。なのに。

傍から見たらただのデート。
心の底からショックを受けてる。裏切られた気持ちの俺がいる。



「仁王。」



まだ放心状態だった俺を、幸村が揺する。



「たまたま、だろ?」



幸村の言葉は、まるで俺の心の内すべて見透かしてるようじゃった。



「仁王だって今日は俺たちと遊んでる。彼女もたまたま、友達に会って一緒に帰ったんだよ。」



それだけだ。

そう言い切って、にっこり笑った幸村に、俺は救われた。



でも、救われたはずなのに。

いつも楽しみにしている夜の電話はなかった。

どっちからするとかは決めてないが、俺からしなければ向こうからくる。

でも向こうからはこなかった。俺からもしなかった。
携帯がやけに重く感じる。

嫌な予感とあの二人の姿だけが、頭に残ったままだった。

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