10 仲間という友達

楽しい時間ってのはあっとゆー間にすぎるんじゃな。
葵と一緒にいるときは時間がたつのがすごく早くて。今までなら早く練習終わらんかなって夜になるのが待ち遠しかった。でも今は夜が嫌いになった。会えないから。

代わりに、部活が好きになった。あいつが見にきてくれるから。終わるまで待っててくれるから。真面目にやれる。

俺ってアホなぐらい単純だったんじゃなって、おかしかった。



「仁王、最近調子いいじゃないか。」



幸村。部長。
今まであんましゃべったことなかったけど、レギュラーになってからは多少。でも誉められたのは初めてじゃ。何を隠そうこの幸村が部活で真田よか厳しいからのう。



「何かいいことでもあったのかい?」

「さーて、どうかの。」



理由は一つしか思いつかんかったけど、別に自慢するほどでもなか。たまに柳生に惚気るぐらいにしとく。



「ふーん。そっか。」



幸村は意味ありげに笑った。たぶん、わかっとる。



「三年生だろ?彼女。」



ドクン、と、一瞬心臓が跳ねた。まぁ、噂にはなっとるし、丸井とか赤也とかに茶化されることもしばしば。うぜーとか思いつつ満更でもなかったり。

でもなんか幸村に聞かれると緊張する。なんでじゃろ。



「ああ。」

「今日は見にきてないの?」

「あー、図書室で勉強しとるから。」



本当はあいつは勉強で忙しい。でも俺が一緒に帰りたいって言ったら待っててくれるようになった。たまに練習見とるけど、基本は図書室で勉強しとる。あの勉強嫌いなあいつが。

俺がやれやれ言っとったのに逆に足引っ張っとる。ダメじゃな。



「ねぇ、仁王。」

「ん?」

「もうやった?彼女と。」



耳を疑った。今なんて言った?幸村が?やったかって?

…なんか意外じゃな。真田とよく一緒にいるからこいつもそっち系かと思っとった。あ、でもけっこう女といるの見るからのう。こいつもこっち系か?



「仁王は手出すの早いって赤也が言ってたからね。」

「赤也め…、覚えとけよ。」



俺がそんなやりとりを幸村としてると、渦中の人物、赤也がノコノコやってきた。



「仁王先輩、今日彼女サン来てないんスか?」



ニヤニヤしながら葵の姿が見えない日はいつも聞いてくる。どっちだっていいだろと思いつつ、あいつの話を出されてまんざら嫌でもない俺がいる。というよりあいつの名前を出した途端、俺の口元が緩むそうだ。柳生談。



「それより赤也、お前さん幸村に余計なこと言ったじゃろ。」

「余計なこと?…ああ、まだキスしかしてないって話?言ってないっスよ!」



幸村が隣で吹き出した。ホントにこのバカ也は。



「あ、やべ。」

「へぇ、仁王。そーなんだ?」

「す、すんません、仁王先輩!」



今さら遅いぜよ。ああ、血迷って赤也なんかにゲロったのが間違いじゃった。なんか緊張して逆に手出せんって。らしくないって笑われたあげくバラされるとは。あーもう今日からワカメは食わん。



「なになに?なんかおもしろい話してんのか?」



丸井もどこからかやってきた。ついでにジャッカルも。最近知ったけど、このコンビも恋話好きなんだよな。



「ああ、仁王が彼女になかなか手出せなくて困ってるらしいんだ。」



おいおい俺そこまで言っとらんぜよ。当たりっちゃ当たりだが他のやつに広めるんじゃなか。



「マジかよ仁王どーした!?」

「あ、まさか彼女のこと本気すぎて手出せないんじゃねぇか?」

「何言ってんだよジャッカル。仁王にそんなピュアな心があると思ってんのか?」

「そーっスよ。知ってます?この人、同級生落とす最短記録保持者っスよ!」

「なになに、その話!」

「やーうちの学年でめっちゃ有名な噂なんスけどね!」



俺は思わず周りを見渡した。もちろん、葵がいないかどうかの確認。こんな話、真偽はともかく聞かれたら終わりじゃ。



「あのな、お前ら俺のことなんだと……、」

「何をしている!お前たち!」



ちょっと遠くから真田の怒声が響いた。俺らが練習中にたまっとったからじゃな。

チッて、舌打ちが聞こえた。幸村からだった。あれ、こいつこんなキャラだったっけ?



「あー見えて、真田も恋してるんだよ。」

「「「マジか!?」」」



幸村の爆弾発言に、俺たちの声がかぶった。

だって真田が恋って。くくっ、爆笑じゃろ。



「相手は!?」

「うーん、はっきり見たことはないけど、よく家に行き来してるらしいよ。」

「家に!?ちょ…!付き合ってんスか!?」

「それはないね。相手がオーケーしないだろ。」



うわー、さらっと酷いこと言ったのう。でも気になるな、真田が恋なんて。幸村に恋愛相談とかしとるんじゃろか。ますます笑える。





「…で、その後もしゃべっとったらついに真田がキレてのう。すんごい形相で俺らを追いかけ回すんじゃ。」

「へぇー。」

「幸村もな、笑いながら真田の怒りを買うようなことばっか言うし。…ははっ、あいつあー見えておもろいやつじゃ。」



帰り道。周りに冷やかされながら葵と学校を出た。

なんか久々に部活で笑った気がする。真田も、幸村と一緒にいたらそれほど怖くない印象。というか、幸村の前だとただのいじられキャラだった。



「よかったねぇ。部活楽しくなって。」



俺はハッとした。もしかして部活の楽しい話題とか禁句だったか?

でも葵は笑っとるし。別に今日何があったか話すぐらいならえーじゃろ。



「おう。今週も試合じゃし、頑張らんと。」



葵はニッコリ笑って頑張れって言った。何だかいつもと比べておとなしい気がしたが、勉強で疲れてるんだろと勝手に納得してた。

詐欺師なんて言われるけど、所詮人の心の奥底は見抜けない。
ただのガキだった。

|
[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -