09 14歳の恋心

そわそわ、そわそわ。…落ちつかん。

三時間目、ようやく屋上で会えた(てか見た)はいいが、そのまんま帰ってきちまって。その後も結局屋上に行かなかった、いや行けなかった。

いざ会うとなると、どんな顔すればいいのか何話せばいいのかわからんし。

謝ったほうがいいんかのう。それとも何事もなかったかのようにスルーのがいいんじゃろか。

あー情けない。なにアホくさいことばっか考えとるんじゃ。でも、

やっぱりこの目で久しぶりにあいつを見てしまうと、ますます会いとうなってきた。やばいナリ。

明日も屋上行って、もし寝とったら叩き起こしちゃる。そんでそれから……、それから………、

…思いつかんけど、とりあえず会うんじゃ。
そう誓って、今日は部活へと向かった。



相変わらず、俺はボール拾いをせっせことする。あいつに誉められて以来、ボール拾いにものすごい意味を感じるようになったから。

ちょっとスピード上げてフットワーク気分でやってみる。
10秒以内に向こうまでのボール全部拾っちゃる。

10……9……8……、

7秒前。ボールに手を伸ばした瞬間、別の手が伸びてきた。

顔を上げると。



「はい。」



逆光が後光に見えた。

にかーっとアホみたいに笑う、葵だった。

フットワークの邪魔しやがって。



「久しぶりだね。」

「…ん。」

「ボール拾い、真面目にやってえらいぞ。」

「…どうも。」



下向いたり、横キョロキョロしたり。やっぱり照れてる自分。素っ気ない返事。

会えてうれしいくせに。泣きそうなぐらい、飛び上がりたいぐらい喜んどるくせに。



「雅に、報告したいことがあって。」

「…?」



何を言いだすのか、気になって。ようやく俺は葵と目を合わすことができた。



「あたし、フラれた。」

「…は?」

「元彼。また告ったんだけど、フラれた。」



ああそうか、こいつはまだ、元彼のこと好きだったっけ。

なんでそんな基本的なこと、今さら気付いたんじゃろ。

…てか、フラれたって。



「俺とはもう無理だから、新しいやつ探せって。」



声が震えちょる。でも顔は相変わらず笑ったまんまだった。

傷ついてる。泣きたがってる。でも我慢してる。



「だから、あたし頑張るね。勉強も頑張らなきゃ。」

「……。」

「最近ね、真面目に授業受けてんだよ。このままじゃやばいって先生に怒られたし。」



だから屋上こなかったんか。
妙にホッとした自分がいた。

元彼に告ったとフラれたと聞いて、少なからずへこんでるのに。

よかった、嫌われてなかったと。ずいぶん控えめならしくない感情が湧いてきた。



「じゃ、じゃああたしもう行くね。図書室で勉強しなきゃ……、」



くるりと葵は俺に背を向けた。そして歩きだす。

とぼとぼと歩くその背中がひどく小さくて。下向き加減の後ろ姿が頼りなくて。

一つ上には。これから頑張ろうって思ってるやつには、見えんかった。



右手にぶら下げていたボールのカゴを真下に落とす。邪魔だった、走るには。



「葵…!」



2秒で追い付いた。後ろから抱きしめると。
俺の視界が黒に染まった。



「…ま、」



葵は振り向こうとしたが、俺はそうさせなかった。
簡単に緩めるわけなか。俺がどれだけ。

どれだけお前のこと捕まえたかったか。お前は知らんじゃろ。



「……きじゃ。」

「…え?」



気付いたら口走っとった。

言うつもりはなかった。というか、自分の中で意識してなかった。ただ会いたくて会いたくて、

ああ、これがそーゆう気持ちなんじゃなって、ぼんやり思っただけ。



「葵…、」

「…はい。」

「俺の彼女になって。そばにいて。」



最後の言葉はかすれた。不安が強かったからかも。初めて言った、こんな臭い台詞。別に臭かないが、なんかくすぐったくなった。そわそわ落ち着かん。わーって逃げ出したくなる感じ。

油断した俺の腕の中、葵は振り向いて俺の顔を覗き込んだ。

さっきまで声震わせとって、泣いてるみたいにしょんぼりしとったのに。
俺の顔を見るなりあははーって笑った。



「雅、泣いてる?」

「…泣いとらん。」

「あははっ、よしよし。」



手を伸ばして俺の頭を撫でてきた。なんか屈辱感。



「何すんじゃ。」

「そんなにあたしに会いたかったのかー?」

「……。」



その通りじゃけど。そんなことは言わない。



「あたしでいいの?」



問い掛ける葵の目は、不安そうだった。俺と同じく。

確かに、こんなバカな女そうそうおらんし。またフラれたってのもアホっぽいし。

でも俺は迷わない。



「いいに決まっとる。」

「来年この校舎にいないよ。」

「うん。」

「雅29歳のとき、あたし30歳だよ。」

「……うん。」

「なに今の間。」

「や、下手したら28歳で30歳じゃろ。俺12月生まれじゃし……、」



あれ?12月って……。

俺が止まってると、葵はにかっと笑って、制服のポケットからガサゴソ出した。

鍵?赤いリボンが結んである。そのまま葵は俺の手にその鍵を渡した。



「ハッピーバースデー、雅!」



忘れとった。今日は12月4日。
俺誕生日じゃった。

なんかやたら今日は女子からプレゼントもらうのうと思っとったけど、話も聞いとらんし中身も開けないから気付かんかった。メールも何件もきとったけどまだ見てなかった。

それより葵のこと考えてた。



「で、これどこの?」

「屋上!」



何となく察しはついたけど。

俺が今一番欲しかったものが今ここに2つ揃った。葵と、屋上への鍵。



「これでいつでも逢引きできるよ。」



ずいぶんやらしー言い方。でも俺を喜ばせるには、俺の今までの寂しさを埋めるには十分じゃった。



「屋上でやりたいんか?」

「…は?」

「スリル満点じゃな。俺はいいけど。」

「…!違うよ!てかあたしは嫌だ!」



自分で振っときながらなんじゃ。

ちょっと憎たらしく膨れた葵を、再びぎゅっと抱きしめた。俺の気持ち全部、込めて。

そしたらやっと葵も抱きしめてくれた。待ってたぬくもり。やっと手に入った。気持ちが通じ合ったんだ。



「…にしても俺の誕生日覚えとるとは意外じゃの。」

「前聞いたじゃん。」



そうじゃけど。こいつは質問してもすぐ忘れるし。

でも思い出した。こいつ、誕生日の質問だけは一回しかしてきとらん。他の血液型とか兄弟とか好きな食べ物とかは何回も聞いてくるのに。別に興味ないんかと思っとったけど。
一発で覚えたからなんじゃな。

ささやかな愛を感じた。14歳の俺、おめでとう。

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