ここは国一番の歴史と文化、教養を誇る学校。且つこの国は世界で最も学力水準の高い国とされているので、世界一の学校ということだ。12歳で激しい受験戦争を勝ち抜いた者は20歳で成人するまでこの学校にいることになる、さしずめ中高大一貫校といったところか。
 その学校の敷地内にある森の中を、一人の青年が歩いていた。
 彼の名は、ディールという。放任主義的なこの学校の生徒の最高権力者、生徒会長だ。
 この森に入る者は多数いるが、ここまで奥地にくる者はあまりいない。景観のために作られたにしては大きすぎて、学校の裏の山とつながっており、少々危険なのだ。
 その森の奥を彼が歩くのには訳がある。
 一年前、彼の二つ下の学年の主席、イルム・ミュートルが行方不明となった。天才的な頭脳。天に愛されたかのような美貌。強気ながらもどこか物憂げで人を引きつける雰囲気。一つ上(つまりディールの一つ下)の学年主席を差し置いて次期生徒会長にともいわれた女性だ。
 ディールは、彼女を好いていた。人と壁を作り意識的に孤立しようとする彼女を構い、うっとうしがられてもまだ構い、生徒会に入ってからは自分の専属秘書などと新しい役職を作ってまで彼女をそばにおいた。
 そして、彼女が行方不明になる前、最後に見かけたのもディールだった。この森の奥へと走っていく彼女をみたというディールの証言を最後に、パタリと彼女にあった者がいなくなった。
 ちょうど二週間ほど前、『終末の王』と呼ばれる何かが現れ、それに人々が抵抗する『終末戦争』が一年以上の戦いの末、人の勝利に終わった。学校の修復、周辺の町の復興活動など戦前よりはるかに増えた仕事の合間をぬって、彼はこうしてまた森の奥へとやってきたのだった。
 池についた。ここには人の手が加わっておらず、だからこその美しさが広がっていた。その美しさに慰められ、ここで一人イルムの安否を思うのが、森の奥へとやってきたディールの常だった。
 いつもと変わらず美しい池を見回していると、向こう岸にいつもと違うものが見えた。それを目に止めたとたん、迂回すればいいものを、ディールは池を横切り始めた。
 紫だった長髪は白く短くなっていたが、それは確かに、
「イルム!」

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