絡まれてるってのはえっちな意味じゃありません

 僕がしょんぼりしてるってのに、田淵くんは空気読まないで僕にお誘いかけてきた。
「あんなチビなんかいいからさ、なみちゃんこれからどっか一緒に行こうよ」
「ごめんまだ先生の呼び出しの途中」
 そうだった。今は僕のわがままってだけじゃなくて先生にも呼ばれてるんだ。だったら電話で呼んだら来てくれるんじゃないかな…と思ったけどそうだあの子携帯持ってないや。不便だなぁ。家電番号は知らないし、パソコンのメールだと遅くなる気がする。
 しゃーない。先生に白廉帰ったって言お。
 職員室に戻るために、まだ付きまとってくる田淵くんを振り切って階段への角を曲がろうとした時、
「っあぶふ」
「あ、どこへ行っていたのだなみ」
 肩に誰かぶつかったと思ったら、心地よく少しかすれた声が聞こえた。見ると、白い髪が。
「びゃあっ!!」
「…それは驚いたのか俺を呼ぼうとしたのか、どちらだ」
 帰ったと思ってた白廉が、何故かここにいた。
「え、え?帰ったんじゃないの?」
「お前こそ帰ったと聞いたが」
 ん?白廉は僕が帰ったと思ってた?で僕も白廉が帰ったと思ってた??
 ……あ、もしかして!
「…田淵くんっ?!」
 つまり、田淵くんが白廉に「なみは帰った」って言ってどっかやって、で白廉探してるなみに「白廉は帰った」って言ってなみを連れ出そうとした、ってこと!じゃないかなーって!
 振り返って睨むと田淵くんは、意外にも驚いた顔で白廉を見ていた。
 …こんな顔の田淵くん始めて。田淵くんって言ったら、いつも「計画通り(ニヤリ)」とかやってるイメージなのに。
 そんな珍しい表情で見られてる当の白廉は、あいつはたぶちと言うのだな、なんて平然としてる。
「もういや、もう田淵くんはほっとこ。でさあ白廉。帰ってないんなら今までどこにいたの?」
「ああ、あの田淵に行けと言われたところで少々絡まれてな」
 荷物をまとめるから少し待っていろと教室の中に入って行くのを、待たずにぴょこぴょこついていく。
「やっぱり田淵くんか…絡まれてたって、もしかしてなみのことで?」
「さてな。ぐだぐだと御託は並べ立てていたが、どうにもただ殴りたいだけの様だったぞ」
「でどうしたの?逆に殴り飛ばしてやったの??」
 白廉強いからそれくらい余裕だよね!
 そしたら白廉は、スポーツバッグを肩にかけながらなんでもないみたいな風にこう言った。
「いや殴らせてやったぞ」
「え、えええ?!」
 いや、いやいやいやこれは流石に嘘でしょ。白廉強いのにそんな大人しく殴られるなんて。それに殴られてたらもっとボロボロになってるはずだよ。
「あいや勿論、完璧な受け身をとった上でだがな。だから外傷はほぼ無い」
 あ、ああそうなんだ。
「でも、でもなんでやり返さなかったの?」
 A組から出て行く白廉に、またぴょこぴょこついて行く。
「なぜって、素人相手に手を上げるほど俺は腐っていない。それにあの程度、一々相手をするまでも無いだろう」
 そして教室の外に出て、まだ廊下で呆然のしてる田淵くんを見た。
「もし俺を手こずらせたいのならば、それこそ殺す気で来い」
 ………かっ…こいー………。
 こ、ここまで田淵くんにやり返した人なんていないんじゃないかな…。
 でも、田淵くんがものすごい顔で白廉を睨んでどっか行くのを見て、我に返った。
「ちょ、ちょっと白廉!そんなことしたら田淵くんホント容赦無くやってくるよ?」
「そうだな」
 白廉はのんきに頭を掻いている。
「そ、そうだなって…んもう。気を抜いちゃダメだよっ?」
 いくら白廉が強いって言ったって、ぼんやりしてたらやられちゃうんだからね!と思って忠告したら、白廉は少し右を向いて顔を伏せた。
「…こんな人が大勢いるところで気を抜ける程、俺は幸せな頭をしていない」
 あとから考えてみれば、この言葉で既に白廉の「弱さ」を覗かせてたんだけど、この時の僕には全くわかんなかった。わからずに、幽霊関係かなーなんて思ってた。バカだなぁ僕。
「して、お前荷物はどうした?」
「え?えっと、しょくいん…」
 室だそうだった!白廉を職員室に連れて行くんだった!
「白廉ちょっと職員室まできてもらえる?」
「いいが、なんの話だ?」
「大丈夫だよー怒られるとかじゃないから」
「そりゃそうだ。怒られる心当たりもない」
 くっ…まだ悪さする暇もない新入りが。


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