ぱん!2!(154554)/1111 memo
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真っ青な夜が終わる





ひやり、と冷たい無機物を首筋に感じた。どうやら刃物のようなものらしい。動いたならばすぐに首が飛ぶだろう。その行動をした犯人はなんとなく、分かっていた。

「…衛宮切嗣」

耳元でぼそりと囁かれる。息がうなじにかかり、そこにいるのだと確信を持った。

「何の用だ、言峰」
「此方に来い」

首に添えられた得物はいつのまにかなく、綺礼に連れられるがまま切嗣は歩いた。どこへ行くのか、それは分からない。しかし綺礼に殺される、というような考えは聖杯戦争中にも関わらず一切切嗣の中から消えていた。綺礼からは殺気は感じず、切嗣は警戒さえしなかった。


夜の冬木市をゆっくりと歩く。ふと綺礼の足が止まり、切嗣を振り返った。その行動に何もせずにいると、綺礼は切嗣に近づいてくる。手が伸ばされ、切嗣の頬をするりと撫でた。

「…殺される、と思わないのか」
「……何故か、思わないよ」

切嗣の頭の中でも、天敵ともいえる綺礼を何故警戒しないのか、恐れないのかは分からなかった。――否、分かってはいた。分かりたくないだけだ。
足のつま先から頭まで視線を移動させる。目があった途端に、心臓が信じられないくらいに跳ねた。ドクドクと五月蝿い心臓を無理矢理に抑え込もうと胸に手を当て、衣服を握りしめる。これだけで、分かる。
切嗣はいつのまにか、天敵として綺礼を調べ上げていくうちに――好きになっていた。
否定しようとした。切嗣には妻がいる。娘もいる。男が好きなわけでもない。なのに、どうして。
頭を冷やそうと夜の冬木に出ただけだった。それなのに、会ってしまった。

「…衛宮切嗣、何故そんな顔をする」
「……黙れ」
「衛宮」
「五月蝿い」

これ以上綺礼の声を、存在をそこに感じてしまったら自分が抑えられなくなるかもしれない。切嗣はそう自分に言い聞かせ、目を瞑って耳を手で塞いだ。

「切嗣」
「……っ」

手で塞いでも、やはりどうしても聞こえるものである。静寂の中で、綺礼はただひたすら切嗣を呼んだ。

「…切嗣」
「きりつぐ」
「切、嗣」

言い方を変えて、耳に囁いたり様々なことをした。切嗣はそれに一々肩を震わせる。綺礼が初めて見る切嗣の表情に、興奮が高まる。もっと色んな表情が見たい。笑ってほしい、泣いてほしい、名前を呼んでほしい。

「……こと、みね?」

気がつけば綺礼は切嗣をきつく抱き締めていた。突然すぎる行為に切嗣は呆気に取られていたが、やがて何をされているか理解すると動揺を隠せず赤くなった。
「言峰、離れ」
「衛宮切嗣」
「だから離れ――」
「私はお前が好きだ」
「――は?」

きつく抱き締めていた腕は解かれ、切嗣の顎に指が伸びる。顔を上げられ、目があうと共にゆっくり近づいてきた。

熱く、激しく、優しい。どこか愛が込められているその長い口づけは切嗣の頭を落ち着かせるのに十分な時間を持たせた。しかし頭はついていかず、ぼんやりと綺礼の口づけを受けるはめになっていた。

「どういう、ことだ」
「…どういうも何も、今気づいた。衛宮切嗣…私は以前から貴様に心を奪われていたらしい」
「らしい、って…」

苦笑い気味に切嗣が言うと、綺礼はまた顔を近づけてくる。切嗣はそれに目を瞑って受け入れるように口づけを待った。くすり、と笑い声が聞こえたと思うと静かに口づけが交わされた。夜が明けるまで、あとすこし。









キリリクいただきました言切です。リクエストしていただいた匿名様のみご自由にどうぞ!

20120213

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