6.
柔らかい唇が何度もヒカルの唇に重ねられる。
「んんっ……!」
やっとの思いでナイフを置くと、
剣人の肩辺りを強く握った。
このまま抱き着きたいけど……
「んっ……やめ……っ!」
ドンッ!
突き飛ばすような形になってしまった事に焦るが、
それでもこの状態から脱しなければならない一心だった。
「あっ……ごめんなさい……」
「いや……こっちこそ悪い」
剣人もわかっている。
止めなければならないのに、
止められなかったのは自分だ。
2人とも目線を外し、
一瞬気まずい空気が流れる。
「も……もう!」
ヒカルが裏返った声を上げる。
「ん?」
「剣人さん!
お店でこんな事しちゃ困ります!」
ヒカルは真っ赤な顔をしながら少し膨れて見せた。
それがかわいくてまた抱き締めたくなってしまったが、
堂々巡りになってしまうのでぐっと堪えた。
「……悪い」
ふふっと笑ってヒカルはカットしたケークサレを2切れ皿に載せて差し出した。
剣人もそれと同時に席に座り、
少し冷めてしまったブレンドをすすった。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
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