4.
「……ん?」
わたしが見惚れていると、
剣人さんに気付かれてしまったようだ。
目が合った後、
剣人さんは席を立ちこちらに向かってきた。
わたしは慌てて手元に視線を落とす。
目の前に立たれた気配に気付きながら、
わたしは気付かない振りをした。
「美味そうな匂いがするな」
剣人さんはキッチンを覗き込み、
鼻をすんっと吸った。
「もうすぐ出来上がるから待ってて」
「早く喰いてぇ」
「もう……。
良い子は席で待ってなさい?」
「おう」
席に戻る剣人さんの後ろ姿越しに、
いつの間にかこの空間にふたりきりになっていた事に気付いた。
なんだか時間がゆったり流れているように感じられた。
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