君の影を探す
「―お慕いしております」
“必ず、私の元に帰ってきてくださいませ”
彼女はその瞳に涙を溜めて、薄く微笑んだ。
今にも零れてしまいそうな雫を拭い、俺は彼女を強く抱き締めた。
「―幸村さま、」
約束を守れなかった俺を。彼女は、恨んでいるのだろう。
「―なっ、旦那っ!」
体を揺さぶられて、ゆっくりと目を開けてみれば。
そこには四百の時が経っても変わらぬ友の顔があって、俺はほうと息をついた。朝の日差しがとても眩しかった。
「…佐助か、」
「佐助か、じゃないよ!もう何時だと思ってんのさ!!」
朝から降り注ぐ小言の雨に分かった、分かったと首を縦に降れば佐助はまだまだ言い足りなさそうな顔をして、渋々ながら口を噤んだ。
俺はそんな佐助を一瞥して体を起こした。
――もう少しだけ、夢の中にいたかった。
彼女に会うことができるなら、永遠に覚めない夢の中にいたい、と。
俺は思う以上に愚か者のようだ。
約束を、破ったのは俺だのに。
彼女が俺に笑いかけてくれる事など、もうないのだ。
「佐助。」
なあに?怪訝そうに、でもしかと俺の目を見てくれる佐助だけが救いだった。
「夢を、見た。」
「…そう。」
佐助はそう言って、少しの間目を閉じた。
この一言だけで伝わるのは単に佐助が俺の忍だったからじゃない。
佐助も、思い出しているのだろう。
―彼女の事を
「朝ごはん、食べよっか」
それ以上何も言わないでいてくれたことが有りがたかった。
「今日の朝ごはんはね、」
あの日、
四百年前に討ち死んだ俺たちは天下安泰のこの世に静かに生きていた。
未だ彼女に出逢う事叶わず