運命の歯車は廻る






「ゆき、むらぁ…」

彼女は泣いていた。
ボロボロと大粒の涙を流し、俺の名前を絶えず呼ぶのだ。









「うわあ!」

跳ね起きた俺は反射的に立ち上がっていた。
そこは授業中の教室で、自分は居眠りをしていたのだと、はたと気がついた。
集中するクラスメイトの視線に耐えきれず、ゆっくりと座った。

「お前なあ、魘されるぐらいならしっかりと家で睡眠をとってこい!」

そういって教師は丸めた教科書で頭を叩いた。
すいません、と呟けばクラスはカラカラと笑いの渦に巻き込まれた。






「顔色悪いよ。」

授業が終わると、隣のクラスから佐助が飛んできた。
授業中の出来事を知るはずもないのに、元忍は不安げに俺の顔色を伺う。
大丈夫だと、言ってもその表情は固かった。

「先に帰りなよ
俺様が担任には言っといてあげるから」

「しかし、」

「―いいから!帰れ!」

佐助が声を荒げることなど滅多にない。
目を丸くすれば佐助は居心地悪そうに呟いた。

「頼むから、」

「…そうだな。悪い」

佐助にこれ以上心配をかける訳にはいかない。
俺は鞄を手に持ち教室を出た。









家へ帰る道のりも今日は何故か遠く感じる。
頭の片隅にちらつくのは彼女の泣き顔。
あんな彼女を見たことは一度もなかった。
夢に見る彼女はいつだって優しく笑っていた、のに。

「…逢いたい。」

溢れる想いはただ一つ。
彼女に、逢いたい。
もう一度この世で
彼女に逢いたい。

「すみません。」

フワリと香る花の香り。
瞬間、体が震える。

「あの、」

間違うものか。
忘れぬものか。
ずっと、ずっと。
逢いたかった。
俺はそのまま、彼女をこの腕に抱き寄せた。

「―っやっと逢えた。」




触れたかった彼女は小さく儚いと思った。




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