嫌よ嫌よも
バン!と大きな音が教室内に響き渡った。
それは別に黒い格好のヒットマンが引き金を引いた訳でも、牛柄タイツのあの子が手榴弾を投げた訳でもなかった、のだが。
がやがやと騒がしかったはずの教室内は瞬時に静まり返り、チョークを動かしていた教師の手も、ピタリと止まった。
「またか、」
黒板の文字を書き写していた手を休め、沢田綱吉は諦めたかのように、深いため息をついて窓側の後方、音の出所を振り返った。
そこではすでに日常と化した争いが起こっていた。
「―ねえ、本っ当に、うざいんだけど、どうしたら私の前から消えてくれるの?」
「それはこちらの台詞でござる。ツナツナツナと、そればかり。耳障りでござるよ。」
にこにこと微笑み合う二人、しかしその笑みとは対照的に言葉の含む棘の多いことといったら。
優は形の良い唇に三日月を描いて、ひらひらと手を振った。
先程の音の原因は優が机を叩いたものに因る。
「やだなあ、真田くん。耳障りって言うのは、君の、五月蝿い、声の大きさの事を言うんだよ。それとツナの名前を口にしないで」
「これは失礼したでござる。耳障りだけでなく目障りでもござった。その短いスカートもなんとかして頂きたいものでござる。周りの男子達も不憫でござろう。もちろん、沢田殿も。」
あははははは、うふふふふふ。
笑い合う二人の真っ黒に淀んだ雰囲気に、クラス中が息を潜める。
綱吉はそこで自分の話をしなくていい、と心中で思っていた。
「別にこれぐらい普通だし、見たくないなら見なければいい。大体真田くんもどこ見てんの?むっつり?は、気持ち悪い。」
「これは要らぬ心配でござったな。優殿の足を見ても何の感情も沸き上がりは致しませぬよ。」
額に青筋を浮かべながらもニコリと微笑んだ二人は、それが限界だったのだろう。
優は座っていた椅子に手をかけ、幸村は竹刀を構えていた。
すでに二人の顔から笑みは消えていた。
「今日こそ、息の根止めてあげる」
「やれるものなら、やって頂こう」
窓ガラスが割れる音を聞いて綱吉は再びため息をついた。
これで開始五分しか経っていなかった四限の授業は丸々パアになる事だろう。
幸村と優は所謂犬猿の仲というものだった。
何が悪いのか、入学当初から事ある毎に衝突を繰り返していた。
それなのに、なんの因果か運命か。
席替えにより隣同士になってからというもの、毎日のように、争いが続く。
それはほんの些細な出来事であったり、果ては顔を合わせただけ、で殺気立つ始末。
その名を学園全体に轟かすほど二人の仲というものは最悪だと思われていた。