特別仲がいいわけでもないただのクラスメイト
「―こじゅ…って、なんでアンタがここにいんだ」
「あ、伊達くん」
数学準備室の扉を開けた政宗は珍しくその隻眼を丸く見開いた。
ふんわり、と政宗の鼻腔を擽る珈琲のいい薫り。
そして、政宗をここに呼び出した(お目付け役とも言える)数学教師の姿はなく、変わりにソファに寛ぐ優の姿がそこにはあった。
テーブルにはマグカップと可愛らしいラッピングが施されたお菓子の類があり、政宗はそれらをチラリと一瞥して優の顔を睨み付けた。
「片倉先生なら会議だよ」
まだ当分帰って来ないと思うけど、と呟いて優は先ほどから読み進めていた文庫本に視線を戻した。
政宗は自分の質問がスルーされた事に少しだけ苛立ちを覚え、短く舌打ちをする。
優は政宗に気を止める様子もなく、パラリパラリとページを捲る。
その淡々とした動作にカチンときた政宗はそのまま優の向かいのソファに乱暴に腰を下ろした。
足を組んでソファに寄りかかった政宗は部屋の中をグルリ、と見回した。
数学の参考書、問題集。
プリントの山。
「(…。)」
続く沈黙に政宗は耐えきれなくなって、ガシガシと頭をかくと口を開いた。
「なんで、アンタがここにいんだよ。」
この部屋に入って開口一番の質問を、政宗は不本意ながら再び尋ねた。
「―リボーン…リボ山先生に呼ばれてさ。」
文庫本から顔をあげた優はパタリとそのまま本を閉じた。
その時見えた本の題名は政宗も一度は耳にしたことがあるものだった。
―そういえば、小十郎に進められたな…。
「リボ山が?」
「だから、ここで待ってんの。」
お茶してさ、と優はマグカップに口をつけた。
無意識にそれを眺めていた政宗は優とパチリと視線がかち合った。
「…伊達くんもなんか飲む?」
「は、」
立ち上がった優は一つの棚を無造作に開ける。
「紅茶にココアに、珈琲も淹れられるけど。」
何がいい?とマグカップ片手に訊ねられ政宗はパチクリと瞬きを一つ。
「coffee。」
「砂糖とミルクは?」
「いらねェ」
「はい、どうぞ」
差し出されたマグカップを受け取って政宗はそれに恐る恐る口をつけた。
「…美味い」
ふいに口をついた言葉に政宗自身が驚いた。
しかし、他に例えようのない深い味と薫りにうう、と唸った政宗に優は満足そうに微笑んだ。
「それは良かった。」
「…アンタってすげェな
こんなに美味いcoffee初めて飲んだ。」
「私なんて、まだまだ。一番美味しい珈琲はやっぱり、リボーンが淹れたやつ!」
そう豪語して優ははっと我に変えると政宗の顔を伺った。
政宗はポカン、と呆けた顔をしたかと思うとクツクツと笑い始めた。
「アンタって、やっぱ変わってんだな」
政宗は珈琲に口をつけた後、ぽつりと呟いた。
「Thanks」
今後は優が呆ける番だった。
―へえ、伊達くんも優しい顔して笑うんだな。
「―っと、お菓子もあるよ!」
「なんでこんなにあんだよ」
「片倉先生に貰ったやつ」
片倉先生って見た目に反して優しいんだねえ、と微笑んで優はハート型のクッキーを口に放り込んだ。
政宗も同じように、クッキーをパクりと一口。
「(甘ェ…。)」
「あ、これも美味しい!」
ニコニコとお菓子の味を楽しむ優を見て政宗はふう、と息をついた。
―本当に、変わったやつだな
(―っ政宗様!お待たせして申し訳ありません!)
(おう、小十郎)
(あ、リボーン…リボ山先生。)
(優か、待たせたな)
少しだけ仲良くなった日
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志炉さま、相互ありがとうございます!
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