飛佐助の思案







おかしい。
佐助は眉間に皺を寄せ自分の主である男の様子を伺っていた。
真田源二郎幸村それが佐助の主である。

「なーにやってんのかねぇ」

キョロキョロと辺りを見回す、かと思いきやひょいと塀を飛び越えてしまった主さまを見て佐助は頬をかいてため息。

「またか、」

この頃様子がおかしい、とは思っていたけど…。
佐助はここ数日の幸村の奇行じみた行動を思い返していた。
ふと、どこか儚げに空を眺めていたり。
はたまた、自分が作った団子をため息混じりに食していたり。
職務をさぼり、城下に下りていたり、と思い返せば佐助はうんと眉間に皺を寄せた。
…絶対、おかしい。
特に毎日のように城下に下りる理由が、わからない。

「これは調べるしかない、ってね」

忍が主さまのことを調べるなんて笑い種だが、そうもいってはいられない。
佐助はまたため息をついて、その背中を追うのだ。



「嘘だろー、」

見失った、と佐助はヒクリ顔をひきつらせた。
どうやら幸村は佐助の尾行に気がついたようで、さっさと人混みの中に紛れてしまった。
くそ、と項垂れ佐助は思う。
ああいうところを執務に回してくれたら、俺さまこんなに苦労しないのになあ、と。

「どうしようかなあ、」

橋の欄干に寄りかかり佐助はふう、と息をついて川面を眺めた。
―それにしても、あの弁丸さまが俺様に隠し事なんて…。
佐助の脳内では幼き幸村、基弁丸がニコニコと可愛らしい笑みを浮かべていた。

「すっかり大きくなっちゃって、」

お付きの忍び、というよりまるで母親のような言葉を吐いて佐助は息をついた。

「帰ろうかな」

はあ、と重いため息をついて諦めて城に帰ろうとした佐助の耳に、女の悲鳴と怒声が聞こえた。

「っ泥棒!」

「へ?」

なに?と顔をあげた佐助の目に、凄い形相で此方に向かって来る男の姿が見えた。
手には女物の巾着袋。
そしてその後ろを走る女の姿を見て佐助は合点がいった。

「兄さん!そいつ捕まえて!」

面倒だな、と思いながらも佐助の体はすでに動いていた。悲しいかな忍びの性というべきか。
あ、と思う間も無く佐助の手刀は男の首に落とされていた。



「本当に、ありがとうございました…!」

深々と頭を下げられて、佐助は照れ臭そうに頬を掻いた。
愛らしい顔立ちをした女はおゆうと名乗った。

「本当に、本当に!助かりました…!」

よかった、と安堵の息をつきながらおゆうは巾着の中から簪を取りだし胸に抱き締める。
簪?と首を傾げる佐助だったが、それがとても大切な物なのだという事がわかった。

「あ、うん。じゃあ俺様もう行くね―って、」

さっさと踵を返そうとした佐助の着物の裾をおゆうはカッチリと掴んでいた。
あのー?と首を傾げる佐助におゆうは待って下さい!、と更に力を込めた。どうやら離すつもりはないようだ。

「お礼を、させて下さい!」

「え、いやいいよ?」

「ダメです!命の恩人にお礼も無しに返すなんて!罰があたります!」

そんな大袈裟な…。と佐助は思ったが、おゆうの顔を見ても引き下がるようには思えない。
どうせする事もなし、お言葉に甘えようかと佐助が首を縦に振るとおゆうはぱあっと顔を輝かせた。




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