それを運命と言うには―少々滑稽に思われるだろう。青年は人間を愛している。全ての人間を(多少例外はいるが、)平等に、愛している。彼の名前は、折原臨也。新宿を拠点とする情報屋だ。臨也は用あって、池袋の地にいた。その用も粗方終わり、臨也は帰路に着こうとしていた。唯一無二の大嫌いな、天敵に会う前に

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人通りの少ない路地を歩いていた臨也は、何処からか聞こえた喧騒の声にピタリ、と足を止めた。話の内容までは分からないが、不穏な空気を感じた臨也はニヤリと笑った。そして臨也の足は自然と動き出していた。声の聞こえる方向へ。

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カラーギャングに囲まれた少年、を臨也はただその真っ赤な瞳で眺めているだけだった。“黄色い”バンダナは黄巾賊の証。臨也は“将軍”と呼ばれた少年を思い出し、クスクスと笑った。

「だからお金なんてないんですって!」

「ああ?」

「本当にないんです勘弁してください!」

少年は必死に、男たちに懇願している。臨也はあの少年はこの街に来たばかりなのだろう、と推測を立てる。臨也にとって、黄巾賊の連中も少年も、愛すべき人間の一人に過ぎない。どちらかに肩入れしては平等の愛とは言えない。従って、臨也に少年を助けるつもりは毛頭なかった。臨也はふう、と肩を落とした。なんら面白味のない、池袋ではよく見られる光景だ。

「(なんだ、つまらない)」

「お、これ洒落てるじゃねぇか!」

男の手が少年の首元のアクセサリーに伸びた。チェーンに通った指輪はキラリと光る。少年はハッと体を強張らせた。そして、―臨也の目は大きく開かれることになる。

「―っ触るな!」

バチン、男の手が大きな音をたて払われる。そこに今の今まで弱腰だった少年の姿はなかった。まるでナイフのように、鋭く尖った瞳に、臨也は魅せられていた。

「ああ?テメェ、」

払われた男やその仲間は、少年の纏う空気が変わった事に気付いていなかった。それどころか、彼らは懐からナイフを取り出すとニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、少年を見下ろした。少年は肩を小刻みに震わせた。男たちは単純に、少年が怯え、震えているのだ、と思った。

「怖いのか僕〜。」

「―。」

「なんだ―っ、」

ボソリ、少年が呟いた言葉は小さすぎて男の耳には届かなかったようだ。それを聞き返した男は、瞬間意識を失い地に伏せる事になるのだ。少年の手に因って。バタリと倒れた男の頭を踏んづけ、少年は肩を揺らして笑った。そして、少年の手には先程まで男が持っていたはずのナイフが握られていた。男の顔からは笑みが消えていた。

「こんなナイフで、俺を刺すの?はは、笑わせるなよ」

少年はナイフの刃先に指を滑らす。その目は笑っていなかった。

「―大人しくしてようと思ったけどさ、しょうがないよね。ツナだって…許してくれるよねきっと、うん。」

“―オヤスミ”
少年はにこり、と笑みを浮かべナイフを放り捨てた。純粋で、透明な笑顔。男たちはその笑顔を網膜に焼き付ける前に、白眼を剥いて地に転がっていた。それはまさに刹那のことだった。
その光景を影ながら見ていた臨也だけが、クツクツと笑い声を溢した。

「…面白い。」

臨也はその時、この運命とも言える出会いを、信じてもいないカミサマという存在に感謝した。


(俺はキミを愛してる。だからキミも俺を愛するべきだよね)





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