イタリアの中心部にある街から、少し離れた場所にその屋敷はあった。
大きな屋敷に広大な庭、それを囲む高い塀を見れば、その屋敷が並大抵のものではないことが見てわかることだろう。
観光客の大半は、その屋敷を何処かの由緒正しいお金持ちのものだと解釈して祖国に帰っていく、それはあながち間違いではない。
ただ実際はボンゴレファミリーという、マフィアの屋敷であるのだが。
そして、その屋敷のある一室にデスクに向かう男の姿があった。
彼の名前は、沢田綱吉。齢24にしてボスの座についている。
蜂蜜色の髪がその優面を引き立てているが、正真正銘ボンゴレの頂点である。

「そろそろ、かな。」

綱吉は壁に取り付けられた時計を眺めてふんわりと微笑むと、椅子に座り直した。
その直後ダダダダッと大きな足音が響き渡り、部屋のドアが勢いよくノックされる。

「どうぞ」

「井山ゆな
只今、任務から無事帰還いたしました!」

綱吉の部屋に入ってきた女は、ピシリと背筋を伸ばすと凛とした声でそれだけを告げた。
綱吉は女、ゆなの姿を確認するとそれはそれは安心したように顔を緩めた。

「お帰り、無事でよかった。」

♂♀


綱吉がニコニコと微笑むのに対してゆなの眉間にはぎゅっと皺が寄る。
綱吉は自分の額を指で叩き(皺、できてるよ。)更に楽しそうに笑った。

「ボス。今なんと仰られました?…私の聞き間違えでしょうか、次の任務と聞こえたのは。」

「うん、聞き間違えじゃないよ。」

「…私は先程任務から帰ってきたばかりで、明日から長期の休暇を頂ける手筈になっているのですが。」

顔をしかめながらも続けられる言葉を、綱吉は変わらず笑みを称えて聞いていた。
そんな中ゆなは胸の内で複雑な気持ちに駆られていた。
もう十年頼の付き合いになる。昔はただのひ弱な同級生だった少年が今では自分の上司となっている。経った月日は確かに少年を変えた。良し悪しを判断するつもりはないが、少し寂しいとゆなは思う。
綱吉は椅子から立ち上がる、と壁に貼られた世界地図に手を伸ばした。―JAPANと書かれた文字を綱吉は愛しげになぞり振り向いた。

「休暇は日本に帰るんだよね?それなら丁度良い。今度の仕事は日本だよ。」

ね?と小首を傾げるその姿は幼い顔も相まって、マフィアのボスには到底見えない。

「だからゆな、お願い?」

ああ、チクショウ。私が逆らえない事を、このお方はよく知っている、とゆなは心の中で毒づいてふうとため息を吐いた。
ゆなが綱吉の手をとると、彼はクスクスと笑い声を上げた。

「仰せのままに、」

そしてゆなはその手の甲にキスを一つ落とした。
綱吉は擽ったいよ、と笑いながらゆなの髪を撫でた。

「―池袋、という街なんだけど。」

その時のゆなは知らなかったのだった、これから非日常が集う街に足を踏み入れる事を。


(逆らうことも許されませんがね。)







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