「どんな気分だった?」
持田のか細い問い掛けに達海は振り返ろうと身をよじった。しかし後ろから抱え込まれた身体は思うように動かず、眉を寄せる。思いきって腹に回された腕を外すことも考えたが、肩に乗せられた頭が重さを増していくのを感じ早々に諦めた。
「ねえ、達海さん」
有無を言わさない声色は微かに震えている。だがそれを指摘するつもりはない。
達海は一度息をはいた。
「どんなって、そりゃショックだったよ」
ぴくりと絡まった腕に力が篭る。気にするそぶりもなく言葉は続く。
「ガタがきてるのは分かってたし、いつかはそうなるだろうなって思ってた。まああんなに早く終わるとは思わなかったけどさ」
「…そう」
諦めたように言いながら肩の上に頭を擦り付ける。そのまま好きにさせながらも達海は一人話を続けた。
「しばらくフットボールは見れなかった。それに、すごい泣いたしね」
「え、達海さんって泣くの?」
「…ちょっと失礼じゃね?モッチー。俺を何だと思ってるの」
「ははっ、だって似合わないし」
「俺は泣かないよ」
「うん」
「泣くわけないじゃん」
達海の肩は益々重さを増していく。耳に直接飛び込む音は確かに濡れていたが何も言わない。彼が欲しいのは慰めの言葉ではないのだと分かっているからだ。自分を抱え込む腕を撫でながら明日からのことを考える。
きっと世間は騒がしくなる。騒ぐだけ騒いで、掻き乱して、いつか忘れてしまうのだろう。ならば今だけ、世の中が二人に気付かない時間だけは穏やかに過ごしていたい。
「…貸しがふたつになっちゃったね」
な、神様。
それは、持田の脚が限界を告げられた日のこと。
20101220