あいつのプレーに頭の中全部持っていかれて
あいつの試合をもっと傍で見ていたくて
だから俺は、







「今更どういうつもりだ」

その声からは憎しみすら感じられる。それでも殺気を向けられた当の本人は眠たそうな表情を崩さない。そんな態度に苛立ちは増す。羽田は盛大に舌を打ち、一歩達海に近づいた。

「チームを見捨てたくせに今度は監督だ?ふざけんじゃねえ」

声を低くしながらもう一歩。彼からのアクションはない。羽田は目の前が赤く染まる錯覚を起こしていた。彼の心には怒りしかない。



出会ったのは偶然だった。
寝付けない夜、意味もなくコンビニに向かっていたら前から見覚えのある姿。そのまま無視でもすればいいのに、羽田は名前を呼んでしまったのだ。呟くように。
はっと息を飲み後悔したが既に遅く、彼は振り向いてしまった。その顔を見て、抑えられるはずがない。
相手は、チームを捨てた裏切り者だから。

「なんとか言えよ!」

静かな道路に罵声が響く。数秒か数分か、沈黙の後漸く達海は動いた。

「そう言われてもさー俺はETUを強くするために帰ってきたんだし」
「っ!」
「辞めるつもりはないよ」


その言葉に、手が出てしまったのは仕方がないことだろう。
ぐっと胸倉を掴み上げ視線を合わせる。達海の表情は変わる気配すらなく、それが余計羽田を苛立たせた。ぎりぎりと鈍い音が聞こえる。



「お前が、いなくなったから!」
「だからETUは崩れたんだろうがっ!」

「なのに今更、」
「今更戻ってきやがって」



「お前の居場所なんかあるわけねえだろ!!」




「それでいいよ」




思わず動きを止めた。達海の声はとても穏やかで、心にするりと入り込む。冷静な頭で見据えた彼はうっすらと笑みさえ浮かべている。息が止まりそうだ。

「別に俺を認めてくれなくてもいい。お前達が支えるのはチームのやつらだ。俺じゃない」

同情を誘うつもりも怒りを静めるつもりもない、ただまっすぐな声が羽田の耳に届いた。力が抜けていく。

「お前達の、お前の声よく聞こえてるよ。いっつも拡声器使ってさ。あれ結構くるんだ」
「背中押してくれてるみたいでさ」

気付いていた。自分の声に、この男が。なんともいえない感情が羽田を高揚させる。胸を締め付けていた腕はだらりと力無く下がった。そんな羽田を見つめたまま達海はいつものように口元を緩めた。

「あいつらのことだけは信じてやってよ」

達海の纏う空気はひどく柔らかで、羽田は小さく頷くだけで精一杯だった。







こいつのプレーに頭の中全部持っていかれて
こいつの試合をもっと傍で見ていたくて
だから俺は、


「俺はお前のサポーターになりたかった」


消えるような望みは、果たして届いたろうか。











遠くなってしまったから、
本心が裏返ったんだ


(つまり俺は悪くない)



20101218







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