爆発がおきて、世界は大きく変わった。壊れてしまった。
それに伴って、確かに日常も大きく変わった。
でもこの歪んだ世界が悲しいとか、目を逸らしたいとかそんな事は他の人と違って、理一郎は思いもしない。
道行く人が嘆いているのを見ても、嘆く理由は正直よくわからない。
(………あいつが消えた時と、何も変わらない)
そう、何も変わらない。
……二人に優しかった世界が壊れてから、いままで。
それは確か小学生の頃の話。
学校からの帰り道、憎まれ口をたたきあっていた時に不意に訪れる会話の途切れ。
別に会話が途切れることが落ち着かないとか、そんな事は感じない。
二人の間には横にいるだけでほっとする空気が漂っていたから。
「ねえ、理一郎」
「……なんだよ」
そんなとき、撫子はひらめいたように理一郎の名を呼んだ。
この時期の理一郎は、機嫌が悪いとかではなくて、とにかく照れ隠しで撫子に呼ばれてもぶっきらぼうな返事しか出来ないでいた。
「みて、空とても綺麗よ」
「………」
沈みかけた夕日が二人の顔を照らす。
おかえり、と二人を歓迎するように、秋の夕日は寒さ以外のあたたかみも孕んでいた。
「綺麗な夕焼けね」
「そうだな」
「…まるで---みたい」
「え?なんて言ったんだ?」
「聞こえなかった?それはそれでいいわよ。大したことじゃないし」
「あっそ」
…そんな、とても些細だけど、今の理一郎を支える大切な記憶の夕日と、今ここで見上げている夕日は違うようでそっくりだ。
(あいつはあの時、夕日をなんて例えたんだろう)
そんな事も今ではもう聞けやしない。
何度も感じてきた喪失感がまたも理一郎を襲う。
それはいつまでたっても慣れない気持ち。
もしも、なんて言い出したらキリがないのはわかってる。
それでも、横に撫子が居たとしたら、今はそんな思い出話をして、聞けなかった答えを聞きたいと思った。
(だから、いつかお前を助けるから…)
もう一度空を見上げれば、さっきまであった既視感はどこかにいってて、空はいつもどおりの寂しくて不安な色をしていた。
撫子がいなくなったときと同じ、孤独な夕焼け空の色だった。
世界の色はあの時から
@居住区
11.11.24