疲れている時に限ってよく見る夢があった。
それは真冬の故郷でレイチェルと二人、何かを話している夢。
真冬なのに空では真夏みたいな太陽がさんさんと主張していて、凍えるような風と全く似合っていないのだ。
その異質さはこの壊れた世界に匹敵している気がした。
「大好きよ」
毎回、レイチェルが僕にあたたかい笑顔でこう言うと夢から覚める。
お願い、もう少しでいいからこの夢をみせて。
いつもそう無意識に願うのに、きまって夢は終わる。
夢とは見る者に都合良く出来ているようでいてそうでないらしい。
「……イン、レイン!」
「っ…?」
「レイン!」
「おーっと、撫子くんじゃないですか。どうしたんですかー?」
「どうしたって…それはこっちの台詞よ。どうしてこんなとこで寝れるの、あなたは。こんな寒いところにいたら風邪ひくわよ!」
「あははーそうかもしれないですねー」
「もう、笑い事じゃないわ」
そう彼女は本当に心配そうに言って、ほんの少し躊躇うように毛布を渡してきた。
(ああ、そういえば昔レイチェルに叱られたっけ)
「もう、どうしてこんなとこにずっと居られるの。風邪ひくじゃない!」
そうレイチェルに言われた言葉がフラッシュバックする。
見た目は全く違うし年齢も違う、なのに彼女とレイチェルは何故か似ているように感じるのだ。
本当に不思議な事に。
「レイン?上の空ね。もう、心配してるのに」
そう言う彼女の姿もレイチェルと重なって見えて、さっきの夢と相合わさって、どうとも形容できないぐちゃぐちゃした気持ちになってくる。
「…そうですかねー?」
「そうよ。今日のレイン何か変よ」
「あなたが言うならそうなんですかねー」
ずっと差し出してくれていた毛布を彼女が引っ込めてしまう前に受け取って、そのまま立ち上がって、さよならして。それでこの会話は終わりの筈だった。
「毛布、ありがとうございました」
「え、もう行ってしまうの…?」
「はいー、キングに何か言われると面倒ですし」
「そう…」
「撫子くんも出来たらあまり長時間出歩かないようにしてくださいねー」
「…ちょっとだけ、待って。お願い」
僕は彼女とあまり背が変わらないから話すときはいつも目線は同じ。
でも、撫子くんはなぜか少し首をかしげてわざわざ僕の顔を覗きこんできた。僕の顔をみると泣きそうな顔をして、またいつもみたいに目線をあわせる。
そんなふうに紡がれた言葉はまるで聞き分けのない子供をあやすよう。
「やっぱり、レイン変よ。いつもと違うわ……泣きそうな顔をしている」
「そんなそんな。違いますってー」
「またかわそうとしてる。ねえ、教えて」
「……僕は撫子くんに弱いんです」
「え、」
「…辛そうなのは、君の方だ」
「それはっ、レインが辛そうだから…!」
「撫子くんは、僕じゃなくてキング…鷹斗くんを心配してあげてください」
「どうして鷹斗を出してくるの…!ねえ、レイン!」
「…僕はもう行きますねー」
これ以上話していたらおかしくなってしまう気がして、その場を去る。
…撫子くんもどうやら気が昂っているようだったし、これでいいんだ。
そう彼女のせいにしてしまうなんて見当違いだろうと、冷静な部分が言っていた。
「おい、レイン。さっきのはなんだよ、お前」
「なんですかー、カエルくん」
「なんですかー、じゃねぇよ!お前最低だな」
「心外だなぁ。…それに、僕は昔からこうじゃないか」
「…っ、ああ!本当にそのとおりだな!見損なうのもバカらしいぜ」
「…次会ったら謝らないとなー」
謝らないと、この気持ちは本心。
彼女が心配してくれたのに、悟られるのが怖かったのも本当。
押さえて抑えているものがこぼれそうになった。
それがなぜか、とても嫌だった。
…自分という人間には、あそこまでの気持ちを向けてくれる価値は果たしてあるのだろうか。
気持ちを切り替えようとすればするほどたくさんのものがぐちゃぐちゃ主張してきて、うるさい。
「ったく、レインよ…」
カエルくんが発した小さな声だけがその場に響いた。
崩されるのはポーカーフェイス
この二人って難しいです…
11.12.18