CLOCK ZERO | ナノ

なにもかもがおかしな世界。
夢だと思っていたのにここは未来と告げられたり。自分の姿も急に成長してしまった。
何よりも一番側にいた理一郎が、側にいない。
物理的にも、きっと気持ちも離れてしまってて、それが一番おかしいと思った。

私の知らない時を過ごした理一郎。そして理一郎の知らない時を過ごした私。
それでも理一郎は理一郎、私は私で、何も違わないのに互いを思う気持ちだけ、違ってしまってるんだと思った。




「またすぐに行ってしまうのよね。理一郎は」

「…ああ、ごめん」

「謝らないで。…寂しいけど、別に悪いことしてるわけじゃないんでしょ」

「まあ…」

「歯切れ悪いのね。やっぱり悪いことしてるんじゃないの?」

「…っ違う!……お前が悲しむような事はしてない」

「そう、よね。…ごめんなさい」


ああ、まただ。理一郎を傷つけてしまった。
小学生の頃は、こんな応報いつもの事で、こんな本気になることなんてなかったのに。
年月がそんな関係を変えてしまったのだろうか。この世界がおかしいからだろうか。

…それとも、理一郎の撫子が私でないから、こんなにもさみしいのだろうか。
最近は、なにかにつけて自分に嫉妬ばかりしてしまう。
それが不毛な事だとわかっているのに。理一郎が私を通して他の誰かを見る仕草に気付いているから。


「撫子?」

「っええ、何?もう平気よ。理一郎は理一郎のすべきことがあるんでしょ。こんな所で油を売ってる余裕はあるの?」

「何が平気だよ…そんな泣きそうな顔して、俺には嘘をつくなよ…!」


突然視界は真っ暗になって、私の体温より少し低い、でも優しい熱が生地越しに伝わってくる。

どうせならこんなに優しくしないで欲しいのに。
理一郎の不器用な優しさに気付いた数だけ、理一郎は理一郎だとはっきり理解してしまう。
このまま立ち去ってくれたら、ただの自己嫌悪で済んだのに。

でも想いとは矛盾して、私は無意識にその優しさに縋るように、離さないというように腕を回していた。


「ばか、理一郎のバカ!私の気持ちも知らないで、バカバカバカ!」

「ごめんな、いつも一人にさせてしまって」

「…違うわ、そんな事じゃないの。理一郎なんて全然バカ!」


零れだしていた涙を止めようなんて思わない。
頭の中はからっぽにして、何が悲しいのかすら忘れるように、ただ悲しい気持ちに任せて涙を流した。

その間、理一郎は私をなだめるように頭を撫でてくれた。
……ほら、理一郎はやっぱり酷く優しい

「落ち着いたか…?」

「………」

「ごめん、行くから」


もう理一郎の優しさに甘えて溺れる訳にはいかなかった。
きつく抱きついた腕をほどくと、理一郎は少し名残惜しそうに私を撫でる手を離した。抱きついている時は気付かなかった理一郎の匂いがした。

「じゃあな……何かあったら連絡入れろよ」

わかった、と言いたかったのに言葉が出なくて、でも理一郎をこれ以上不安にさせたくない一心で精一杯の笑顔と一緒に、大きくひとつ頷いて。
理一郎もそれに安心するように部屋を後にした。


(…いかないで…私は、ここにいるの)

理一郎の後ろ姿が見えなくなるまでずっと見ていた。ずっと。
夕焼け空のキャンパスの上に、鮮やかに曖昧な水彩画みたいに、その残影が瞼の裏に焼きついた。


水彩みたいなソラ


(どうして今日に限って空がこんなに澄んでいて、前の世界の空にそっくりなんだろう。)




世界の色はあのときからと繋がってるようなそうでもないような話のつもりです

全然お祝い感ないけど、りったんお誕生日おめでとう!

12.01.03