AMNESIA | ナノ

「どうして女の子って良い匂いがするんだろうね。」
そんな素朴な疑問を昔ケントに投げ掛けたことがあった。ろくな答えは期待していなかったけど、嗅覚に関しては専門外だと一蹴された。

同じことを当時付き合っていた子に聞いたこともある。
その子は僕に頭を撫でられるのを心地よさげにし、うっとりとした顔で、自分が良い匂いだと言われて嬉しそうにした。


結局この疑問の答えはわからない。ふとそんな事を思い出して、僕はマイにも訊ねてみようと思った。

「ねえマイ。どうして女の子って良い匂いがするんだろうね」
「イッキさん、どうしたんですか?」
「うーん、なんとなく、かな。率直に教えてよ」
「イッキさんが求めている答えとは違うかもしれないんですけど…」

僕の求める答えなんかじゃなくたって僕はマイの思うこと、感じること、その全てが知りたいと思う。

「きっと、誰かが気になるからだと思います」
「へえ…どういうこと?」
「同性の目が気になったり、異性の事が気になったり、女の子って忙しいからそうなのかなって」

すごく面白いと思った。そして僕の中にすっとおさまる答えの1つな気がした。
化粧とか香水とか、そんな作り物の匂いじゃなくて、女の子を抱き締める時の独特の甘い香りは、それは恋する香りだったのだろうか。それはあまりに自惚れだろうか。

「うん、でもなんでだろう、マイはすごく特別いい匂いがするんだよね。僕が君に夢中すぎるからかな」
「もう何言ってるんですか…!」

照れて真っ赤になるマイが可愛くて、さらに腰を抱き寄せれば驚いて小さく声を洩らす。一挙一動が可愛くて仕方ない。
すぅっと深呼吸すれば、シャンプーの香りとそれからマイだけの甘い香りが鼻から肺に広がって。

「うん、ほんとにマイって良い匂い」
「もう、今日のイッキさんはわんこか何かなんですか」
「ハハッ、そんなもんかもね」



11.11.07