AMNESIA | ナノ

マイが僕の部屋に越してきて、七回目の朝。
昨晩は遅くまで一緒にテレビを見ていたせいでマイはまだ夢の中。そして僕は普段と同じ時間に目が覚めてしまって、特にすることもなく、マイの寝顔を眺めていた。

小さな肩が上下に動く。白い手は顔の横で小さくグーで握っている。そして長い睫毛がたまにふるっとふるえて。ただ寝顔を眺めてるだけでたくさんの発見があって、何もしなくても全然飽きないのが自分でも不思議になる。
部屋を見渡すように時計を眺めれば、マイを眺めはじめてもう10分もたっていた。

(ちょっとくらいイタズラしてもいいよね)

僕が同棲する際誓ったのは「彼女が嫌がる事はしない」という、シンプルな事。でもそれは自分の首を絞めているというのが事実。
でも、女の子とこんな付き合いをするのははじめてだからか、それとも僕が本当に心から好きになった子だからなのか、マイが僕を素直に受け入れてくれる日を楽しみにもしていた。

(逆に言えば、マイが嫌がる事さえしなければいいんだから)

まずはマイの手を触ってみる。
かなり眠りが深いせいか、この程度の戯れでは起きない。

今度は枕元に顔を近づけて、頬に、額に触れるだけの口づけを落としてみた。
自分でもおかしいくらい、まるで壊れ物を扱うような優しい口づけを繰り返す。
正式に付き合い始めて日は浅いし、キスですら物足りないと感じる回数しか出来ていないけど、この触れるだけの口づけはずっと昔から繰り返してきたような、そんな錯覚に陥いる。心の奥が愛おしいと叫んでるようだと思った。
少しくすぐったそうな顔をするだけで、マイはまだ起きない。

「そろそろ起きてくれないと、襲っちゃうよ?」

冗談のつもりで言った言葉だけど、無防備なマイを前に口に出したら本当に理性がゆるみそうになってしまった。

(あ、ヤバイかも)

それでも彼女が本当に大切だから、その気持ちには蓋をして。そのかわりに、

「ごめんね、睡眠の邪魔しちゃって。…おはよう」

その言葉と一緒に、眠り姫の呪いを解く王子みたいに、呼吸すら奪うくらいの激しい想いを口づけにこめた。


呪いなんて目じゃない


11.11.24