novel | ナノ

こんな運命を望んでいる訳じゃない。
天海は優しさ故に歪み、歪みは孤独を呼び、孤独だから本当はあんなにも優しい。
天海の絶望を知っているのは私だけでその諦めの原因も私。

そんな寂しい人を助けたい。心からそう願うのに、気まぐれな神様は困難な壁を築く。



「あまみ…」

夜半の庭には月明かりが差し込み、二つの長い長い影を作る。
ここ連日、天海は人目を避けて私の前に姿をあらわした。
みんなに気付かれたらきっと私は天海と戦わなければいけない。天海には逃げてと、そう言うべきなのだろうけど、この安らぎと胸の奥がざわざわとする不思議な感じが心地良くていつも言い出せなかった。

「どうして」
「どうして、とは…どうしましたか?神子」

天海の瞳は笑っているようで何もうつしていない、虚ろな色を浮かべている。胸のざわめきがより一層大きくなる。


「神様が許せないの」
「神子、それは私の事ですか。それは傷つきます…」
「ううん、天海じゃなくて。…私と天海を引き離した神様」

はっきり言い切ると天海は、きれいな指を月光に照らし眺めながら、悟った口調で話す。


「神子、それは神の仕業ではなくて人間共の愚行の所業です」
「…どうしてそう言い切れるの?」
「なぜなら神々は何時だって君の味方なのですよ。…私を含めて」

だから神を憎むのはおやめなさい。そう言って、触れる事の叶わない手で顔をそっと撫でられる。
撫でられた部位はひんやりするようなあたたかくなるような不思議な感覚を与え、さぁっとひいていく。


静寂が訪れても天海の纏う空気のお陰だろう、気まずさどころか凪のような穏やかさを与えてくれる。
いつまでもこの安らかな時間が続けばいいのにと切実に思う。天海もそう感じているだろうか?




甘い夢へと堕ちたいのです



夢だというのなら、もっと深くまで



title:空想アリア