novel | ナノ

利用するつもりだった少女に囚われたと気付いたのはいつだったか。

女性というのは何も意識せずとも自分のまわりにやってくるものだと思っていたけど、彼女は自分の女性像には当て嵌まらなかった。かと思えば急に必死にやってきて、英語で言うところのイレギュラー、彼女はまさにそれだった。

それは元の世界にいた時も彼女の世界にきてからも大きく変わる事はなく。



「ゆきくん、何してるの」
「小松さん!お久しぶりです」


社会人と学生という身の上、会える時間は限られる。
だから今日のデートも半月ぶりの事だった。
久しぶりに見る彼女は半月前よりますます綺麗だった。


「小松さんってね…前も言ったじゃない。よそよそしくしないでって」
「えっと…帯刀さん?」
「まあ及第点かな。よく出来ました」


往来で立ち話もなんだからと、そう言って腕を肩にまわして助手席に彼女を乗せる。


「どこか行きたい所は?」
「帯刀さんとなら…何処でも…」


消え入りそうな声でつぶやいたゆきの顔は真っ赤になっていて、照れるくらいなら言わなきゃいいのにと思えど自分も顔が赤くなっている気がしてつっこむ気になれなかった。惚れた弱みというやつか。


「…じゃあ適当にまわろうか、行きたいとこがあったら言うんだよ」
「はい」


にっこり。こんな擬音が今のゆきの表情を説明するのにぴったりだろう。たったこれだけで極上の笑みを浮かべる彼女はやっぱりイレギュラーだ。


「ふふっ、そんなに嬉しい?」
「だって帯刀さんと久しぶりに一緒にいられるから…嬉しくないわけないんです」


変則的一番星


「きみって人は…どうしてこうなの」
「?私変な事言いましたか?」


そして無自覚なんだからこの花はタチが悪い。今日もまだ会ったばかりだが振り回されっぱなしだ。
どんなお返しをしようか考えて、アクセルを踏んだ。