novel | ナノ

今日は一月一日。

お節料理はちゃんと作ってあるから普段より早く起きる必要はない。
でもなんとなく目が覚めてしまった千鶴は、横で眠る二人を起こしてしまわないようにそっと布団から起き上がる。


何もしなくて良いからか、普段はあまり考えないような事ばかり考えてしまう。そして最終的には家族の事、とりわけ家族の健康が思考を占める。



数えで五歳になった息子と、羅刹になり寿命を削り、労咳を患っていていつこの世を去るかわからない総司さんと、新たな年を迎えることが出来た。

それは奇跡と言っても過言ではないと、千鶴は考える。


千鶴は二人の寝顔を眺めながら、こんな幸せな時が末永く続いていくようにと願わずにはいられかった。
…だから澄み切った、雲一つない青空に願い事をした。



二人とたくさん思い出を作れますように。
やんちゃ盛りな千聡が怪我と病気になりませんように。
総司さんが寝込んでしまう日が減りますように。

家族三人でもっともっと一緒に過ごせますように……


気がついた時には双眸からは涙が溢れてむせび泣いていた。
このままだと二人を起こしてしまうと思って涙を拭っても、嗚咽は止まらない。


「っ…うっ……」

「…千鶴?千鶴!!」

「あっ、そうじ…さん…っ」

「どうしたの!」

「なんでも…ない、です…っ。心配なさらないでください!」

「…心配にならないはずがないよ…ほら、泣くなら僕のところにおいで。」


ゆっくり沖田の元へ行くと、千鶴はぎゅっと力強く抱きしめられた。
以前より確実に腕は痩せていたけど、抱きしめる力と温もりは以前とちっとも変わらない。


「総司さん…私は幸せすぎて怖いです…このぬくもりを手放したくない…!」

「…僕もだよ。この寝顔と泣き顔が見られなくなるのは嫌だ…でもさ」

「でも…?」

「千鶴、今日は正月だ。そんな暗い顔しないで。」

「そう…ですよね。」


そう、今日はお正月。
おめでたい日に悲しい涙を流すなんて訪れた福も逃げてしまうだろう。
だから千鶴は涙を拭って、笑顔を作る。


「総司さん。」

「なあに?」

「今年もよろしくお願いします。…今年も大好きです。」

「うん。よろしく…今年も君を愛してるよ。」


そうして二人で顔を見合わせ笑い合うと、布団からもぞもぞと千聡が起きてきた。


「千聡…あけましておめでとうございます。」

「千聡、おはよう。あけましておめでとう。」


二人からの挨拶を受け、千聡は瞼を擦りながら二人の前にちょこんと正座をし、深々と頭を下げる。


「父さま、母さま、新年あけましておめでとうございます。……って父さま、どうして母さまを泣かせてるんですか!!」


「いいのいいの。ほら千聡もおいで。」

「まったく…父さまはどうして新年から母さまに意地悪するのですか!」

「ふふっ…千聡、いいのよ。それより」


怒りだした千聡を宥めながら、二人は腕を広げ千聡の居場所を作る。
千聡は母が泣いている訳がいまいちわからなかったけど、二人が笑っていることにほっと胸を撫で下ろし、二人の腕に飛び込んだ。