novel | ナノ

今朝から少し嫌な予感はしていたけど、まさか予感が的中するとは。

学校と家との中間地点でポツポツと雨が降り出してしまった。

大きな溜息を吐いてみても、当たり前だけど雨はやまない。
降水確率は午後から30%、折りたたみ傘を持っていると心強いでしょう。というお天気お姉さんの声を思い出して、寝坊してしまった今朝の自分を恨めしく思う。

気を取り直して一番近いコンビニで傘を買おうと財布を探すが、なんと家に置いてきてしまったようでどこにも出てこない。
こういう状況を泣きっ面に蜂、八方ふさがり、というのだろう、と思いながら仕方ないと腹をくくり鞄を傘代わりに、ダッシュで家に帰ろうとした時だ。


「何をしている。子を産む体が冷えたら一大事だ。」


いつも私を執拗に狙う、苦手な声が後ろから響く。


「風間…さん?」

「俺以外の誰だというのだ。こんな寒い日に雨に体を晒すなど俺の嫁がこんな愚か者だとは思わなかった。」


そう言って風間さんに無理矢理抱き寄せられると、近くの家の軒先で雨宿りをする事になってしまった。


「今車を呼ぶ。」

「あっ、ありがとうございます。」


そして訪れたのは微妙な沈黙。
いや、私だけが緊張してしまっているのかもしれないけれど。
というか突然の状況に思考が追いつかない。


…風間さんの事は正直苦手だ、と思う。
いつも嫁嫁と訳のわからない理由を見つけてはなぜか私にせまってくる。
どうして接点のほとんどない私なのかまるでわからない。
それに今日みたいな突然の登場といい、色々読めない人…だと思う。

だから警戒してしまうし実際今も警戒している。けれど今はこの沈黙の方が辛かった。


「あの、風間さん。どうしてここに?いつもお車ですよね?」

「千鶴が校門を出るところをたまたま見かけたからな…つけてみたのだ。」


当たり障りのない話題を振ったつもりが、悪びれる様子もなくストーカー発言。
私は一体どう反応すればいいのだろうか…


「千鶴の横顔が、不安そうだった。」

「え?」

「お前が空を見上げて不安そうな横顔をしていたから、だから追った。そうしたら案の定雨の中走ろうとしただろう。…まったく、お前は俺が見てないと何をしでかすかわからない。」

「もしかして心配してくれたんですか?」


私は風間さんに聞こえないくらいの声量で疑問を投げかける。

もしかしたら私は少しだけ風間さんの事を誤解していたのかもしれない。
今日だってもしかしたら自分も濡れてしまうかもしれないのに、私を心配してくれた。

そう思うと胸がぽかぽか暖かくなる。

少し、いやかなり常識外れな所はあると思う。でも、考え無しで行動する人ではないのかもしれない。





ポタポタと聞こえていた雨の音が小さくなって、空を見上げれば少し東の空は綺麗に晴れていた。


「あ、風間さん。雨やんできましたよ!風間さんが止めてくれなかったらびしょぬれになる所でした。」

「そうだな。それじゃあ俺が送ってやろう。」

「えっ、いいです全力でお断りします。」