novel | ナノ

※黎明録終章バレ有り













歳三さんと添い遂げてから2度目の春。
遅咲きの桜舞う、五稜郭の裏手でのお花見。

去年は歳三さんとこうして添え遂げた事を祝福し、散っていったみんなに手向ける為にお花見をした。
そして今年も同じように歳三さんにとって、私にとっての大切な人達の事をこの桜に重ねて想う。

それともう一つ。
今年は新撰組のみんなに伝える事がある。


私は少しだけ重たくなった身を起こして少し離れた所で佇む歳三さんの元まで歩く。


「歳三さん」

そう愛しい名を呼べば、鬼の副長なんて呼び名があった事など微塵も感じさせない穏やかな笑顔が振り向いた。

「千鶴か…おい、そんな早足で歩くな。大事があったら大変だろう」
「早足って…これのどこが早足なんですか…そんなに心配なさらなくて平気ですよ」


そういうと彼はでもよ…と言葉を続ける。
私の身体を心配してくれているのはとても嬉しいけど最近の歳三さんは過保護すぎる。



でも、こんな悩みを抱ける私はきっと世界で1番幸せだ。
新撰組にいた頃を思い出せばこんな幸せな悩みとは無縁の殺伐とした生活だったのだから。


「何にやけてるんだよ。」
「…私は歳三さんが思っている以上に歳三さんの事が大好きなんだろうなって思ったので。」
「ほんとお前も言うようになったよな…俺も千鶴が好きだぜ。お前が感じてる以上にな。」
「うふふっ…知ってます。」
「ったく…本当お前には敵わねぇよ。」


彼は私から目を逸らし、目の前の桜の木を眺める。
そんな歳三さんを堪らなく可愛らしいなと感じながら私も彼に倣って桜を見上げた。



「来年は3人でまたここに来ましょうね。」
「ああ、そうだな。」


少しばかり目立ってきた腹部を撫でれば新しい生命がどん、と動く音がする。

…君も賛成なのね。



「歳三さん。この子も一緒に桜を見たいって言ってますよ。」
「ん…どうした?」
「お腹の中で動き回ってます。」
「本当か。なら決まりだな。」



そう言って二人で桜の天井を見上げれば春の月は優しく微笑んでいた。



笑うあなたの隣りで


近藤さん、沖田さん、山崎さん、井上さん、それに斎藤さん原田さん永倉さん島田さん。

私と歳三さんは宝物を授かりました。

…みなさんが私に託してくれた彼は私の横で笑ってくれています。



title:空想アリア
101210