目に映るすべては甘やかに




現在ハートの海賊団の船は夏島へと接近中。潜水中の暑さに耐えきれないベポの悲痛な訴えと、周囲に敵船の影も見当たらないことから、浮上しまま航海を続けているものの。海上を生温く漂う湿った空気と照りつける日差しのせいで、クルー達は絶賛夏バテ中だ。



「暑ィな…」

「言わないでよ、余計暑くなるじゃん」



それは鍛えられているはずの船長ローも例外ではなく、ソファの背もたれに乗せた両腕には力が入っていない。いつもの偉そうなポーズも力の抜けた身体じゃ、ただへばっているだけにしか見えなかった。


昼食が出来たことを知らせに船長室へとやって来たナマエだったが、珍しく元気のないローの姿が新鮮でぐったりとした表情を覗き込む。


(…弱ってるローさんって、かわいい…)


じっと見つめてくる気配に気付いたのか、閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げたローの視線が正面に立つナマエを捉えた。普段よりも些か力を失った瞳が、思案の色を滲ませている。



「………」

「どうしたの?ローさん大丈夫?」

「……ナマエが裸になれば涼しくなると思うんだが」

「いや、意味が分からない」



やっと口を開いたかと思えば、飛び出したのはセクハラ発言。いくら夏バテしていようが、ローはローだった。至って通常運行である。心配して損した、とナマエが心の底から大きくため息を吐いた瞬間。

手首を掴む熱にグイと引っ張られ、そのままバランスを崩した彼女の身体はソファへと倒れ込んだ。



「わっ、ちょ…ローさん!?」

「ナマエ、暑ィ…」

「いやいや、暑いならまずはこの手を離そうか!?」

「嫌だ」

「えー…!」



駄々をこねる子供のように、ナマエを抱きしめたままローはソファへ寝転がる。暑い暑いと文句を言うくせに、彼女の首筋に顔を埋めたローが動き出す気配はなかった。



「…ローさーん?お昼ごはん食べないのー?」

「……めんどくせェ…食いたくねェ」

「もー、なに子供みたいなこと言ってんの」

「一食くらい抜いてもどうってことねェよ」

「ダメだよ、ちゃんと食べないと余計にバテるよ?」



圧し掛かってくる大きな身体をポンポンと叩きながら、心配そうに声をかけるナマエだったが……甘えん坊将軍と化してしまったローは聞く耳持たず。密着したせいで汗ばむ白い肌へ、好き勝手に唇を押し付けていた。



「ちょっ…あ、やだッ、もう」

「……ナマエなら、食えるかもしれねェ」

「ばっ、バカ!なに盛ってんの…っや」



なだらかな曲線を描く柔肌を確かめるように、意思を持った両手が這い回る。強弱をつけて翻弄してくる骨張った感触は、ナマエにとってもすっかり慣れ親しんだもので。ほんの少しの刺激だけで、いとも容易く彼女の思考を甘く溶かしていった。






目に映るすべては甘やかに




羞恥とほんの少しの期待に染まった瞳。薄く張った膜の向こう側で揺れる濃藍色に、湧き上がった愛おしさが尽きることはない。






title / hmr
2012.6.10



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