きみは奇跡だと言い僕は運命だと言った




夕方から冬島の気候海域に入ったせいか、船内の廊下はひんやりとしていた。食堂から船長室へ戻る途中だったナマエは、昼間のままの薄着でいたことを後悔しながら、小さく体を震わせた。風邪をひく前にさっさと部屋に戻ろうと、早足でローの待つ船長室へと急いだナマエだったが。



「遅ェ…」

「ごめーん、ローさん。仕込みのお手伝いが長引いちゃって…」

「こっち来い」



部屋を開けた瞬間に視界へ飛び込んできた不機嫌な男の表情に、しまった…と今さらながら冷や汗をかく。ソファへ深く腰掛けるローの隣へ大人しく移動したナマエだが、その位置はどうやら間違いだったようで、すぐに彼の両足の間へと引っ張られた。


足の間にすっぽりと納まるこの姿勢を、最初の頃こそ恥ずかしがってすぐに逃げ出そうとしていたナマエだったが、こうしてぴったりとくっ付いてくる時にローが見せる甘えに気付いてからは、大人しくされるがままになっている。それに彼女自身、誰よりも安心できるこの腕の中で過ごす時間がきらいじゃなかった。



「今日ベポが捕まえた海王類をね、燻製にしようってコックさんと話しててね、下拵えで塩漬けにしてたんだよ」

「燻製か…酒のつまみには丁度いいな」



ナマエが語る他愛無い話に相槌を打ちながら、彼女のつむじに顎をのせたままの姿勢でローが回した両腕へぎゅっと力を込める。強くなった拘束に心の中だけで小さく笑いながら、ナマエは仕込みの最中の出来事をひとつひとつ語っていく。



「なあ、ナマエ」

「ん、なあに?」

「お前がいた世界の話、聞かせてくれねェか」



それは不意に会話が途切れた時だった。ナマエを抱きしめたままのローが珍しく強請った内容に、身じろいでいた彼女の動きが一瞬だけ止まる。それからうーんと小さく唸って、考え込んだナマエは一つの話を思いついた。



「あのね、私が住んでた世界にはクリスマスっていう行事があってね。国ごとでその意味合いはちょっと違ってくるんだけど…私のいた国だと、家族や友達、恋人と過ごす日っていうイメージが強いかなぁ」

「へえ…」

「小さい子供たちはサンタクロースからもらえるクリスマスプレゼントが一番の楽しみでね…」

「サンタクロース?」

「うん、真っ赤な洋服を着た白いお髭の小太りなおじいさん。トナカイのソリに乗って、世界中の子供にプレゼントを配ってるの」

「そのジジイ…怪しくねェか」

「ぶっ…怪しくはないよ!まぁ実在はしてないから、実際は親がサンタさんの役割を担ってるんだけどね」

「なんだ、そういうことか」



ナマエが語るクリスマスとサンタクロースの話に、大真面目に耳を傾けるローだったが。次第に恋人と過ごす風潮の強い日本でのクリスマスを熱く語り出した彼女に、ふと思い出してソファを立った。



「ローさん?どうしたの?急に」

「……やる」

「え、」



ガサガサと机の引き出しを漁っていたローが手渡してきた、細長くて薄い箱。反射的に受け取ったナマエが不思議そうに手の中のものを見つめていると。もう一度ソファへ腰を下ろしたローが、彼女を腕の中へ閉じ込める。



「この間の島で見つけて、お前に似合いそうだったからな」

「これ、私に…?」

「ああ、何となく渡しそびれてたんだが…丁度いいだろ、クリスマスプレゼントってやつだ」



包装も何もされていない裸のままの箱だったが、そっと開くと中から現れたのはゴールドの華奢なチェーンにぶら下がる、雪の結晶をモチーフにした可愛らしいネックレスだった。



「かわいい…!本当にいいの?」

「ああ、おれが持ってても仕方ないだろ」

「…ありがとう!ローさん!」



もとの世界では叶わなかった"恋人たちのクリスマス"が私にもやって来るなんて、と頬を赤らめて喜びいっぱいに語るナマエに、ローは柔らかく微笑みながらその熟れた頬へと口づけを落とした。





きみは奇跡だと言い僕は運命だと言った





title / hmr
2012.12.23



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