AM 10:00




東から昇った太陽は、真上を目指しながら強い日差しを注いでくる。雑さは否めないものの、空の眩しさに目を細めつつ何とかすべての洗濯物を干し終えたロー。からになった洗濯かごを見つめ、ああ今日はよく働いたもんだと一人満足感を覚えていれば。



「オニーサン、いま一人?」



隣の部屋のベランダとを隔てる間仕切りの向こうから聞こえてきた、女の猫撫で声。振り返ったローの視線の先では含み笑いをした女が、蜂蜜色のロングヘアを揺らしながら、身を乗り出し顔を覗かせていた。



「…あ?だったらどうした」



滅多にマンションの部屋から出ないローだったが、この媚びた笑みを向けてくる女が隣の部屋の住人だということは、薄ぼんやりとした記憶の断片から何となく分かる。だからといって愛想よく振る舞うつもりはないのだが。



「ね、イイことして遊ばない?」



目と目が合ったせいでより一層乗り出してきた女の、柔らかそうな胸の谷間がふるりと揺れた。きっと先ほど確認したナマエの下着のサイズより、軽く2つ3つは上のカップだろう。開いたカットソーから浮かび上がる白肌をちょうど照らすように、陽光が降り注ぐ。



「へェ…楽しませてくれんのか?」

「隣のオネーサンよりは満足させてあげられると思うけど?」



ぷっくり膨らんだ女の瑞々しい唇が、意味ありげに吊り上がって弧を描いた。馬鹿な女は嫌いではない、後腐れなく遊べるから。互いの欲をぶつけ合うには誂え向きだ。もちろん需要があれば、の話だが。



「結構な自信だな」

「それにオニーサン格好いいから、養ってあげてもいいよ」

「フフ…面白ェこと言うな」



おもむろに女へと近づき、口端を歪めながら低く笑うロー。吐息がかかるほどの距離で静止したまま、期待に染まった瞳を覗き込めば。待っていましたとばかりに睫毛を伏せながら、女がゆっくりと顔を傾ける。



「……生憎、餌と寝床は間に合ってんだ」



そう言って、目を瞑る女の間抜け顔を鼻先で笑ってやった。パッと弾かれたように眼を見開いた女の顔が赤く歪んでいく様に、我ながら悪趣味だと思いながらもローはますます可笑しさを堪えきれなくなる。



「それに飼い主を選ぶ権利くらいあんだろ?」



くつくつと漏れる笑いに肩を震わせながら、用は無いと言わんばかりに女に背を向けベランダを後にした。そんなローの頭に浮かぶのは、発展途上のおしとやかなバストを持つ"飼い主"の姿だった。





思った以上に愛されているらしい、AM10:00





常日頃は何だかんだと文句を言ってはいるが、存外自分はこの部屋の主のことを気に入っているらしいと自覚するロー。今夜は隣の部屋まで響くほどにたっぷり鳴かせてやるかと、ペットらしからぬ思考にふけるのだった。





2012.4.18





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