AM 9:00




この部屋の主であるナマエは会社勤めをしているため、月曜から金曜までの日中は基本的に不在である。二人だと手狭なはずのこの部屋も、ロー一人が過ごすには少しばかり広く、静かに感じるものである。


見るとはなしに付けっ放しになっていたテレビから流れるのは、毎日似たような下世話な話題で盛り上がるワイドショーのチャンネル。

まったくくだらねェと溜め息ひとつ、ローが手に取ったリモコンで電源を落とした――ちょうどその時。ピーピーピーと甲高い電子音が、脱衣場から聞こえてきた。



「………」



ナマエが出勤前に放り込んでおいた洗濯物が洗い終わったのだろう。そういえば出掛けに、洗濯物をベランダに干しておくようしつこく念押しされた気がする。面倒なことを思い出してしまったと、ローはだらけた姿勢のまま白い天井をぼんやりと眺めた。


朝目覚めてから今この瞬間まで、定位置のソファでごろごろとしかしていなかったローに比べれば、洗い・すすぎ・脱水までをこなした全自動洗濯機はなんと働き者であるか。ナマエがもしここにいれば、間違いなく洗濯機の頑張り―…もしくは、情けない男の姿に涙を浮かべたことだろう。



「だりィな……」



洗濯完了の電子音と出掛けのナマエのセリフは聞こえなかったことにして、このまま惰眠を貪るのは簡単であるが……仮にナマエの言い付けを守らなかったとすれば、間違いなく面倒なことになるのは想像に難くない。例えば、禁酒・禁煙・禁欲の類を強制される…などなど。



「…チッ、仕方ねェ」



そんな大変な目に遭うのならば多少煩わしくとも、今ちゃちゃっと洗濯物を干してしまったほうがいくらかマシだ。そう結論付けて、ローは重い腰を上げると脱衣所へ向かった。


洗い終わった衣類を洗濯かごへ適当に突っ込んで、次に向かう先はもちろんベランダである。今日は見事なまでの快晴、洗濯日和。抜けるような青空と眩しい日差しが、不規則不健康な毎日を送るローへ容赦なく突き刺さる。



「あーめんどくせェ……あン?」



タオルやらパジャマやらを手当たり次第に物干しハンガーへ引っかけていくローの手がふいに止まった。ゆっくりと目の高さまで持ち上げられたそれは、控えめなレースがあしらわれた薄ピンク色のブラジャー。

そういえばコレを脱がすことは多々あっても、こうして手に取りまじまじと観察することはなかったな、と気付くロー。何せ普段の彼が興味のあることといえば、柔らかな膨らみを覆う可憐なレースよりも、敏感な反応を見せるその中身であるからして。



「…ハッ、まだまだ発展途上だな」





知らぬ間に下着のサイズを鼻で笑われる、AM9:00





青空をバックにひらりと風に揺れる女物の下着。「今夜も育ててやらねェと」なんて、ちゃっかり確認したサイズ表記を見ながら、好色めいた笑みを浮かべ独り言ちるローなのだった。





2012.4.17





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