AM 8:00




一日中ゴロゴロしているお陰か、体力の有り余った同居人が毎晩のように盛ってくる為、平日のナマエは大抵寝不足のまま朝を迎える羽目になる。ギリギリの時間の中で、身支度と簡単な家事を済ませてから出勤…という分刻みのスケジュールをこなす日々は、もちろん今朝も繰り返される。



「あーもう時間がないよーっ」



こんもり盛り上がった洗濯物の山。それをタオル、下着、洋服と種類ごとに分けてネットへ入れると、ぽんぽんと乱雑に洗濯機の中へと放り込むナマエ。洗剤と柔軟剤を入れて、スイッチを一つ。ようやくリビングのローテーブルの前に落ち着いたのは、家を出る20分前だった。



「ていうか、また顎にニキビ出来てるし…!」



テーブルの上に置いた鏡を覗き込んで簡単に化粧を施しながら「絶対ストレスだ…」とか何とかぶつくさ文句を零しながら、合間で湯気の立つマグカップに口をつける。朝は何も食べない、というより…睡眠時間を優先してしまうため、いつの間にやら朝食抜きの生活に慣れてしまっていた。



「…あー……眠ィな…」

「あ、起きたんだ。コーヒーまだあるよ」

「…ん」



きっと二度寝をしていたのだろう。ぼさぼさ頭を引っ提げ、ローが大欠伸をしながらリビングへと姿を現した。彼もまた朝食をとる習慣がない…というか、朝からこうして起きていること自体が実は珍しいのだ。



「そうだ、洗濯物洗ってるから後で干しといてね」

「あ?めんどくせェ…」



キッチンカウンターに置かれたコーヒーメーカーから自分の分のコーヒーをマグカップに淹れるローへ、マスカラを塗りながらナマエが声をかける。ヒモでニートな暇人の彼に、ちょっとした家事手伝いのお願いだ。実にささやかなものである。



「どうせ暇でしょ、ローは」

「チッ…」



だというのに、テレビのリモコン片手にソファへ腰を下ろした男はふてぶてしく舌を打ち、女の言葉を右から左へすり抜けさせていくのだった。もちろんそれは、ある意味予想通りの反応ではあるけれど。思わずナマエの口から零れたのは、呆れ半分諦め半分のため息だった。



「はぁ……とりあえず私、もう仕事行くからね?」



プツリと音を立て、賑やかな映像を映し出す液晶テレビ。朝の情報番組ももうじき終わりの時間のようで、画面の中では12星座ごとの今日の運勢が順番に映し出されていた。それをぼんやり眺めるローに、最後にもう一度だけ洗濯物を干すよう念を押して、化粧を終えたナマエが立ち上がる。



「じゃあ行って来るからね」

「おう、今日も頑張って働いてこい」



ソファの背凭れに両腕をだらりと乗せたまま、ナマエを見送るローの態度はいやに尊大だ。軽く苛ついたナマエが眉を顰めたのにも気にする様子はなく、背凭れに片肘をつきながらニヤリと笑って、さらに一言。



「で、俺を養ってくれよな、ナマエチャン?」





根っからのヒモだと再認識した、AM8:00





「この、穀潰し…!」

「フフ…なァ、」

「……なによ」

「早く帰って来いよ」



優しげに笑う彼の表情に一瞬見惚れてしまったのには、気付かないフリの彼女。





2012.1.31





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