PM 24:00




風呂上がりのビールにありつけなかったことをほんの少し根に持ちながらも、慈しむように柔らかな口づけを落としてくるローの姿に絆され、大目に見ることにしたナマエ。日々些細なことで小さな言い争いは起きるが、それも結局のところは痴話喧嘩と言えるような可愛いもので。



「んー…もうこんな時間か。そろそろ寝るかな」



帰宅後に多少騒がしくはあったけれど、今日も一日平和だったなぁ…なんて一日を総括しながら、寝室のベッドへと向かおうとしたナマエだったが。背後からかかる男の声に、嫌々ながらもぴたりと足が止まる。



「おい、まだ寝るなよ。もう少し俺に付き合え」

「えーやだよ。今日は誰かさんのお陰で色々疲れたもん」

「あ?何だよ、つれねェな…仲直りのセックスしようぜ」

「……ほんっとローって三大欲求に忠実に生きてるよね」

「まあな。素直だろ?」

「いや、褒めてないから」



オブラートに包むつもりもそれらしいムードを醸し出すこともせず、極めて直球で攻めてきたローにナマエは腹が立つよりも先に呆れ返った。大きくため息を吐くとくるりと背を向け、今度は迷いない足取りで寝室へ向かう。

何といっても明日も仕事だ。朝は早い。ヤる気満々のローに深夜…いや、下手したら明け方近くまで付き合わされるのはナマエも勘弁である。



「なあ、本当に寝るのか?」

「うん。まだ眠くないなら、ローは起きてていいよ?」

「……俺も寝る」



そう言って早々にベッドの中へと入るナマエを追って、ローもまたその身を彼女の隣へ滑り込ませる。もぞもぞと身動ぎしながら、布団の中で横たわる柔らかな身体を片手で抱き寄せたローが、もう片方の空いた手でリモコンを操作し照明を落とした。



「じゃあ、おやすみー」

「…ナマエ」

「んー?」

「寝る前にマッサージしてやろうか」

「……なんかセクハラの匂いしかしないんだけど、その発言」

「お前は俺を何だと思ってんだ」

「え、絶倫ヒモ男……って、痛い痛い!」



容赦なく頬を抓りあげてくるローの腕を、慌てたようにナマエがバシバシと叩く。不貞腐れたように眉間に皺を寄せるローだったが、そのままナマエの手のひらをぐにぐにと捏ねるように両手の親指で指圧していった。



「っう、あー…気持ちいい…」

「ちっせぇ手だな」

「ローの手はおっきいね」



マッサージを受ける手のひらを委ねるようにローと向かい合わせになったナマエが、ふふふ…と嬉しそうに笑う。一緒に暮らしている二人だからこそ、最近ではデートらしいデートもしていなかったし、家の中じゃまず手を繋ぐなんてことはしない。

ナマエは自分の手のひらをすっぽり覆ってしまう骨張った大きな手の感触が、何だか無性に嬉しかった。



「デカイのは手だけじゃねェだろ?」

「は?」

「もっと他のところも気持ちよくしてやろうか」

「…変態」



だというのに、やはり目の前のこの男の辞書に「エロ」という文字は極太赤文字でしっかりと刻まれているらしい。ニヤニヤと笑いながらわざと耳元で囁くローへ、冷ややかに吐き捨てるナマエだが。



「その変態が好きなくせに?」

「うっ…まあ、否定はしない」

「何だ、素直だな」

「そりゃ、ね。好きじゃなきゃずっと一緒にはいないよ」



ローの腕の中へ捕らわれた瞬間から、結局は彼のペースに引き摺り込まれてしまうだけなのだ。冷たい言葉で突っぱねようと、背を向け無関心を貫こうと。触れる体温から流れ込んでくる、互いを愛しいと想う感情は止められはしない…らしい。



「……やっぱ、食うか」

「え、ちょ…ッ!!」






そして今夜も襲われる、PM24:00






2012.8.20




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