PM 21:00




ミートスパゲティを平らげた後、テレビのリモコン片手にソファへ寝転がるロー。すぐ横になると牛になっちゃうよ、と母親のような小言をこぼしつつもそんな彼を横目に、ナマエはさっさと洗い物を済ませてしまおうと流し台へと立った。



「ああ、そうだ。洗濯物、干しといたぞ」

「え?洗濯って…」

「何だよ、自分で言っといて忘れたのか?」



泡だらけの皿を水で洗い流す背にかかったローの声に、不思議そうな顔をしたナマエがリビングのソファを振り返る。背もたれ越しに目の合ったローが、外を見ろと言わんばかりにベランダへと続く窓ガラスを指さした。



「……あ、」



すっかり日は落ちて外は真っ暗になってしまっていたが、確かにパタパタと風にはためいているのは、見覚えのある柄のタオルに部屋着のTシャツなどなど。それから……風に煽られあられもなく絡み合った、ローのボクサーパンツとナマエのブラジャーだった。



「え、ちょっ…ロー!何あれ!」

「あ゙?」



感謝こそすれ、ヒステリックに声を荒げられる覚えのないローは、怪訝な表情をナマエへと向ける。しかし彼女からの返答はなく、慌てたようにベランダへと走っていくナマエの後ろ姿を、無言のまま眉を顰めて見つめるロー。



「おい、お前が言った通りに干してやっただろ。何が不満なんだよ」

「ローのばかっ!普通、あんな堂々と見えるところに下着干す!?」



そう。いつもナマエが洗濯物を干す際には、人目につかぬよう自分の下着はタオルで囲って目立たぬ場所へ吊り下げるようにしていたのだ。しかし普段の彼女の仕事ぶりを見ていないローには、それは知る由もないことで。



「あんな貧相な下着、誰も見ねェよ」

「なっ…!ど、どうせ私は貧乳ですよっ」

「別にデカけりゃいいってもんでもねェだろ」

「……でも、貧相って言った!」

「まあ、デカくなりてェって言うんなら…俺ももっと頑張るか」

「…ッ、頑張んなくていいから!」



からかうような言葉とニヤニヤいやらしい笑みを浮かべるローが、ベランダから取り込んだ下着を抱えたまま、顔を真っ赤にして肩を震わせるナマエへと近づいていく。そしてするりと腕の中から抜き取った、薄ピンク色のブラジャーを目の高さまで持ってきて――。



「お前の下着もその中身も、俺だけが興味持ってればいいだろ?」

「!!……知らないよ、ばかっ」

「フフ、照れんな」

「照れてない!」

「まだまだ発展途上のナマエチャンだし、仕方ねェか?」

「違うってば、もう!…ちょ、こら!どこ触ってんの!?」



窓ガラスに映るのは、じゃれるように縺れ合う二つのシルエット。恥ずかしそうに顔を背け、身を捩るナマエは残念ながら気付かない。無防備な首筋へと口づけを落とすローの瞳が、腕の中の彼女を愛おしそうに見つめていたことには。






組んず解れつな、PM21:00






2012.8.6





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