PM 14:00




次にローがパチンコ店を出た時、さっきまで真上にあったはずの太陽はわずかに傾き始めていた。眩しさに目を細めながら、重さの増した財布をジーンズの後ろポケットに捩じ込むと、ローは駅前の通りをあてもなくぶらつく。


腹もいい感じに膨れたし、財布の中身も家を出た時の倍に膨らんだ。このままマンションへ帰るのも何となく勿体なく感じて、ローは昼下がりの繁華街をもう少し歩いてみることにした。

特に行きたい場所があったわけでも、欲しいものがあるわけでもない。ただ何となく、お得意の気まぐれを発動させてみただけ。


だがふいに視界へ飛び込んできた、赤い花飾りのウェッジサンダルに足が止まる。ショーウィンドウに飾られたそれは、安定感のあるソールと対照的な華奢なアンクルストラップ、ヌバックで幾重にも花弁が作られた華やかなフラワーモチーフが印象的で。



「……ナマエが好きそうだな」



先日いつものようにローがソファの上でごろごろしている時だった。暇潰しがてら手に取ったファッション雑誌に、似たようなサンダルが載っていたのだ。ご丁寧にページの端が折られていたから、ナマエの好みであることは間違いなかった。



「ちょっと見てくか」



ガラス張りの店内へ入ると、近くに居た女性店員からいらっしゃいませと声がかかる。表に飾ってあったサンダルが並ぶ棚まで案内してもらうと、ローは商品を手に取りまじまじと眺めた。見れば見るほどナマエに似合いそうだ。



「贈り物ですか?」

「ああ」

「サイズはご存知でしょうか?」



にっこりと上品な微笑みを浮かべながら尋ねてくる店員に記憶していたナマエの足のサイズを告げると、在庫確認をしてきますねと言って彼女は一礼をしてからその場を離れる。

一人残されたローはぐるりと店内を見渡しながら、この赤いサンダルを履いて嬉しそうに笑うナマエの姿を思い浮かべていた。



「お待たせいたしました」



真っ白な紙箱を両手に持って戻ってきた店員が、そっと蓋を開ける。ふわりと香った真新しい革の匂いと、目に飛び込んできた鮮やかな赤。ローは柄にもなく、このサンダルを贈った時のナマエの反応を早く見てみたいと思った。



「…いいな」

「渋みのある赤色ですので、華やかですが派手になり過ぎないんですよ」

「あいつに似合いそうだ」



満足気に口端を持ち上げるローの和らいだ表情に、店員も好感触を感じ取ったのか…これを贈られる方はきっと素敵な女性なんでしょうね、そう言いながら浮かべた笑みを深くする。



「もしサイズが合わなかった場合も在庫があれば交換は可能ですので」

「ああ、じゃあこれをもらう」

「ありがとうございます。では贈り物用にお包みしますね」



てきぱきと会計とラッピングを済ませた女性店員は、清々しい笑顔でローを店先まで送り出す。ショップ名が箔押しされた高級そうな紙袋を受け取ると、ローは足取りも軽く大通りの交差点を渡った。





臨時収入で買ったプレゼントを片手に上機嫌な、PM14:00





この紙袋を渡せばあいつは驚いたように目を丸くさせながら、花のような笑顔を咲かせるだろうか。怒らせてばかりの毎日だから、たまにはこんなプレゼントを贈ってみるのもいいだろう。

ああそうだ、今夜は早く帰って来いよとメールでも打っておこう。





2012.5.28





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