はやく来い来い、お正月




穏やかな航海に恵まれた本日のハートの海賊団。春島の海域に入っているお陰で、ぽかぽか陽気の心地よい昼下がり。


海面に浮上した潜水艦の甲板では、カードゲームに興じるクルーたちの白熱した声に混じって愛らしい歌声が聞こえていた。



「も〜いーくつねーるぅーとぉ〜♪おーちょーうーがぁーつ〜♪」


「お正月には〜凧あげて〜♪」



母親であるマリアの膝の上にちょこんと座り、パタンパタンと足でリズムを取りながら声を揃えて歌うメイ。


すぐそばでその様子を見ていたベポも、舌足らずな歌声に身体を揺らしながら笑う。

ベポの腹に背を預けていたローも、薄く片目を開けながら穏やか笑みを浮かべていた。


そしてその後ろではペンギンとシャチが二人並んで船縁から釣糸を垂らしている――そんないつも通りの平和な一日に、波紋を投げかけるメイの一言。



「…ねえママー、たこってなぁに?うにょうにょ?」


「え?」


「たこあげて〜って、なぁに?なにくれるの?」



きょとん、とつぶらな瞳を向けてくる愛娘の言葉に一瞬言葉を失ったマリア。しかしすぐに相好を崩し、優しく頬を撫でた。



「そうね〜…凧って言うのは誰かにプレゼントするものじゃなくてね、お空に浮かべて遊ぶ玩具、かな?」


「う、ういちゃうのっ…!?」


「そう、ほら…今このお船は、あそこに張られた帆に風を受けて海を進んでるでしょう?それと同じよ。風に乗って空を飛ぶの」


「す、すっごぉぉおおおい!たこさんすごいねっ!!」



さすが海賊の娘、というべきだろうか。船の帆に例えてみせれば、あっさりと疑問は解決したようだが―…肝心の部分を何だか勘違いしている感が否めない。



「……おい、メイ。言っておくが、凧っつーのは海ん中にいるヤツじゃねェぞ」



その様子を見かねたローが、横から口を挟んでくる。無関心なフリをしていても、やはり内心ではメイのことが気になっているのだ。



「うにょうにょ、おそらとばない?」


「飛ぶワケねェだろ…お前の頭ん中はどんだけめでてェんだ」


「でもキャプテン〜、グランドラインは広いから飛ぶタコもいるかもね」


「…ベポ、お前も海の蛸から早く離れろ」



のほほんと笑う白熊にひとつため息を吐いてから、ローが重い腰を持ち上げた。



「…チッ、ちょっと待ってろ」



面倒臭そうに船内へ戻っていくローの後ろ姿に、メイとベポは不思議そうに小首を傾げていたが、マリアだけはローが何をするのか分かっているようでクスクスと笑みを零していた。


――そして数分後。

どこから持ってきたのか、ローの手にはお子様用のクマちゃんプリントのビニールカイト。



「あーっ!かわい〜!!ロー!メイにもみせてみせて〜」



キラキラと目を輝かせて手を伸ばしてくるメイに、あーだこーだと凧の説明を始めるロー。

子供だからといって容赦しないローの解説は、ベポでさえ半分は理解できない難解なものだったが、構ってもらえるのが嬉しいのか…メイはニコニコと笑っている。


前に停泊した島で、ローと初めてのお正月を過ごすメイのために用意していた凧。

小さな雑貨屋でソレを手に取るローの不器用な背中を思い出すと、それだけで思い出し笑いの止まらぬマリアなのだった。






はやく来い来い、お正月






2010.12.30





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