聖なる夜に深き愛を、慈しみを 光の届かぬ海中深くを静かに航海するハートの海賊団の潜水艦。 硬く無機質な船体とは真逆に、船内――とりわけ今日の食堂は賑やかだった。 「シングルベ〜ル♪シングルベ〜ル♪すっずぅがぁーなるぅー」 まさに鈴の音のようにコロコロと愛らしい声でクリスマスソングを口ずさむメイの手には金銀色とりどりのオーナメント。 ベポに(ローにしてもらって以来ハマった)肩車をしてもらいながら、自分の背丈の何倍もある大きなモミの木に飾りつけを施していく。 と、そこへ―…本人はまだ認めていないものの、メイの一応父親であるらしいローが現れた。 「おいコラ、メイ」 「ん?なぁに?ロー!」 「ジングルベル、だろうが。ったく、お前は世の中の寂しい人間すべて敵に回す気か」 「…?………チングル、べる…?」 「チン、でもねェ。ジ・ン・グ・ル・ベ・ル、だ」 「じ・ん・ぐ・る・べ・る!!」 「そうだ。それでいい」 そう言って刺青の入った大きな手で、メイの柔らかな髪を撫でるロー。 くしゃり、くしゃりと、その手触りを確かめるように動かされる手のひらに、メイの瞳も気持ち良さげに細められた。 そんなひどく穏やかな空気が漂い始めた時、ぱたぱたと音を立て近付いて来た足音。 「あらロー、珍しいわね。こんな所にいたの?」 「……ああ、まァな」 不意に背後から掛けられた声に振り向けば、案の定そこにはメイの母親の姿。 思わずメイに触れていた手のひらを剥がして、置き場に困ったソレをなんとなしに顎へ持っていく。 顎髭を撫でる仕草にくすりと小さく笑んだマリアへ、気まずさを隠しきれない男が睨みを利かすが―… そんなものを気にも留めないマリアは、我が子の顔を覗き込みながら良かったねと笑う。 「うんっ!!ローになでなでしてもらったよ!」 にぱぁっと弾けんばかりの笑顔を見せるメイに、マリアが笑う、ベポも笑う。 ただ一人ローだけは、顰めっ面で黙々と木の枝にオーナメントを括り付けていた。 けれどそんな照れ隠しの姿も、結局はマリアの笑壺に入るだけなのだった―… 聖なる夜に深き愛を、慈しみを 素直じゃないサンタさんへお願いごと。 それは―― 願わくばこの穏やかな時がずっとずっと続きますように。 2010.12.25 |